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道をたすけよ。こをはぐくめ。のちの世をとへとて。ふかき契りをむすびをかれしほそ川のながれも。ゆへなくせきとゞめられしかば。跡とふのりのともし火も。道をまもり家をたすけむおやこの命も。もろともにきえをあらそふとし月をへて。あやうく心ぼそきながら。なにとしてつれなくけふまではながらふらんおしからぬ身ひとつはやすく思ひすつれども。子を思ふ心のやみはなをしのびがたく。道をかへりみる恨はやらんかたなく。さても猶あづまのかめの鏡にうつさ[イ无]は。くもらぬかげもやあらはるゝと。せめて思ひあまりて。よろづのはゞかりをわすれ。身をようなき物になしはてゝ。ゆくりもなくいざよふ月にさそはれいでなんとぞ思ひなりぬる。さりとて文屋のやすひでがさそふ水にもあらず。《古今雜下 文屋のやすひてかみかはのそうになりてあかたみにはえいてたたしやといひやれりける返事によめる 小野小町 侘ぬれはみをうき草のねをたえてさそふ水あらはいなんとそおもふ》すむべき國もとむるにもあらず。比は建治三三冬たつはじめのさだめなきそらなれば。《按將軍執權次第將軍惟康親王執權相摸守時宗》ふりみふらずみ時雨もたえず。《後撰冬 よみ人しらす 神無月ふりみふらすみさためなき時雨そ冬のはしめなりける》あらしにきおふ木のはさへ。なみだとゝもにみだれちりつゝ。ことにふれて心ぼそくかなしけれど。人やりならぬ道なれば。いきうしとてもとゞまるべきにもあらで。《古今離別 源さね 人やりの道ならなくに大かたはいきうしといひていさかへりこん》なにとなくいそぎたちぬ。めかれせざりつる程だに。あれまさりつる庭もまがきも。ましてと見まはされて。したはしげなる人々の袖のしづくも。なぐさめかねたる中にも爲相《爲相卿公卿補任云文永二四十三從五下三歲 同五八廿四從五上同八四‐侍從同十二正十八兼美作權守建治元八十六復任弘安二八十二正五下元爲輔改‐相同六五廿九復任》侍從爲守大夫などのあながちにうちくつしたるさま。いと心ぐるしければ。さまいひこしらへ。ねやのうちをみれば。むかしの枕さへさながらかはらぬをみるにも。今さらかなしくて。かたはらにかきつく。

 とゝめおくふるき枕の塵をたに我たちさらは誰か拂はん

代々にかきをかれけるうたのさうしどものおくがきなどして。あだならぬかぎりをえりし