このページは校正済みです
る人々のゆくすゑをおぼつかなく戀しきこともさま〴〵なれど。隅田がはらならねばこととふべきみやこ鳥もみえず。
思ひいてゝ名をのみ慕ふ都鳥あとなき浪にねをやなかまし
此國になりてはおほきなるかはいとおほし。なるみのうらのしほひがた。音にきゝけるよりもおもしろく。濱ち鳥むら〳〵にとびわたりて。海士のしわざにとしふりにける鹽がまどものおもひ〳〵にゆがみたてるすがたども。みなれずめづらしきこゝちするにも。思ふことなくて都のともにもうちぐしたる身ならましかばと。人しれぬこゝろのうちのみさま〴〵くるしくて。
これやさはいかになるみの浦なれは思ふ方には遠さかる覽
みかはの國八はしといふところをみれば。これも昔にはあらずなりぬるにや。はしもたゞひとつぞみゆる。かきつばたおほかる所と聞しかども。あたりの草もみなかれたるころなればにや。それかとみゆる草木もなし。なりひらのあそんのはる〴〵きぬるとなげきけんも思ひ出らるれど。つましあればにや。さればさらんとすこしおかしくなりぬ。みやこいでてはるかになりぬれば。かの國の中にもなりぬ。はまなのうらぞおもしろきところなりける。波あらきしほの海路。のどかなる水うみのおちいたるけぢめに。はる〴〵と生つゞきたる松のこだちなど。繪にかゝまほしくぞみゆる。おちつきどころのさまをみれば。こゝかしこにすこしおろかなる家ゐどものなかには。おなじかや屋どもなどさすがにせばからねど。はかなげなるあしばかりにて結びをけるへだてどもゝ。かげとまるべくもあらず。かりそめなれどげにみやもわらやもと思ふには。かくてしもなか〳〵にしもあらぬさま也。うしろ