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群書類從卷第三百三十一


紀行部五

東關紀行

前河內守親行


齡は百とせの半に近づきて。鬢の霜漸冷しといへども。なすことなくして徒にあかしくらすのみにあらず。さしていづこに住はつべしともおもひさだめぬありさまなれば。彼白樂天の身は浮雲に似たり首は霜ににたりと書給へる。あはれにおもひあはせらる。もとより金帳七葉のさかへをこのまず。たゞ陶潛五柳のすみかをもとむ。しかはあれども。みやまのおくの柴の庵までもしばらく思みイやすらふ程なれば。憖に都のほとりに住居つゝ。人竝に世にふる道になんつらなれり。是卽身は朝市にありて心は隱遁にあるいはれなり。かゝるほどに。おもはぬ外に。仁治四條三年の秋八月十日あまりの比。都を出て東へ赴く事あり。まだしらぬ道の空。山かさなり江かさなりて。はる遠き旅なれども。雲をしのぎ霧を分つゝ。しば前途の極なきにすゝむ。終に十餘の日數をへて鎌倉に下り着し間。或は山館野亭の夜のとまり。或は海邊水流の幽なる砌にいたるごとに。目にたつ所々。心とまるふしをかき置て。わすれず忍ぶ人もあらばをのづから後のかたみにもなれとてなり。東山の邊なる住家を出て。相坂の關うち過るほどに。駒引わた