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群書類從卷第三百三十
紀行部四
海道記
源光行
白河の渡り中山の麓に閑素幽栖の侘士あり。性器に底なければ。能をひろひ藝をいるゝにたまるべからず。身運は本より薄ければ。報ひをはぢ命をかへりみて。うらみをかさぬるに所なし。徒に貪泉の蝦蟇となりて。身を藻によせてちからなきねをのみなき。むなしく窮谷の埋木として意樹に花たえたり。惜からぬ命のさすがに惜ければ。投身の淵は胸の底に淺し。するかひなき心はなまじゐに存じたれば。斷腸の棘は愁の中に茂り。春は蕨を折て臨る飢をさゝふ。伯夷が賢にあらざれば人もとがめず。秋は菓を拾て貧き病をいやす。美子が藥もいまだ飢たるをば治せず。九夏三伏の汗は拭てくるしまず。手中に扇あれば凉を招くにいとやすく。玄冬素雪のあらしは凌ぐにあたはず。身のうへに衣なければ寒をふせぐにすべなし。窓の螢も集ざれば目は暗がごとし。なにを見てかこゝろざしをやしなはん。樽の酒も酌事を得ざれば心に常に醒々たり。いかが憂を忘れんや。然間歲の水はやく流れて生涯はくづれなんとす。留とすれども留まらず。五旬のよはひの流車坂に下る。朝に馳暮に馳す。日月の廻りの駿駒のひま。かゞみの影に對