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 契をきし花の盛をつけぬ哉春やまたこぬ花や匂はぬ

たびなる所にきて。月の頃。たけのもとちかくて。風の昔にめのみさめて。うちとけてねられぬ頃。

 竹の葉のそよく夜每にねさめして何ともなきに物そ悲しき

秋のころそこを立てほかへうつろひて。そのあるじに。

 いつことも露の哀はわかれしをあさちか原の秋そ戀しき

まゝ母成し人。くだりし國のなをみやにもいはるゝに。こと人かよはして後もなを其名をいはると聞て。おやの今はあいなきよしいひにやらんと有に。

 あさくらや今は雲井に聞物を猶きのまろか名のりを[やイ]する

かやうにそこはかとなき事を思ひつゞく[以下一本三七三頁下段一五行ニツヾク](底本三八七頁上段一四行)わかれしつゝま[以下一本三七三頁上段一行ヨリツヾク]かでしを。おもひいでければ。

 月もなく花もみさりし冬の夜の心にしみて戀しきやなそ

われもさおもふ事なるを。おなじ心なるもおかしうて。

 さえし夜の氷は袖にまたとけて冬の夜なからねを社はなけ

御前にふしてきけば。池の鳥どもの夜もすがら。こゑはぶきさはぐ音のするにめもさめて。

 わかことそ水の浮ねにあかしつゝ上毛の霜を拂ひわふなる

とひとりごちたるを。かたはらにふしたまへる人きゝつけて。

 まして思へ水のかりねの程たにそうは毛の霜を拂ひ侘ける

かたらふ人どち。つぼねのへだてなるやりどをあけあはせて。物語などしくらす日。又かたらふ人のうへにものしたまふをたびよびおろすに。せちにことあらばいかむとあるに。かれたるすゝきのあるにつけて。

 冬枯のしのゝを薄袖たゆみまねきもよせし風にまかせん

上達部殿上人などに對面する人はさだまりた