このページは検証済みです
させんといへは。こと葉にきこえさせんもかたはらいたうて。なにかは。あた〳〵しくも聞えさせ給はさるを。はかなきこともと思ひて。
かほる香によそふるよりは郭公きかはや同し聲やまさると
さしいてたり。またはしにおはしましけるほとに。かのわらは。かくれのかたにけしきはみありけは。かくれのかたにて御覽しつけて。いかにそとゝはせたまふに。御文をさし出たれは。御覽して。
同しえになきつゝをりし郭公聲はかはらぬものとしらなん
とかゝせ給て。わらはに給はすとて。かゝる事人にいふな。すきかましきことのやうなりとて。いらせ給ひぬ。持てゆきたれは。おかしと見れと。つねにはとて御ふみはきこえす。たまはせそめて。またの日。
うちいてゝもありにし物を中々に苦しきまても歎くけふ哉
との給はせたり。もとの心ふかゝらぬ人の。ならはぬつれ〳〵のわりなくおもほゆるに。はかなきことなれと。めとまることなれは。御かへしきこゆ。
けふのまの心にかへて思ひやれ詠めつゝのみすくす月日を
かくしは〳〵のたまはするに。御返もとき〳〵きこゆ。又つれ〳〵もすこしなくさむ心ちしてあるほとに。又御ふみあり。ことはなとこまやかにて。
語らはは慰む方もありやせんいふかひなくは思はさらなむ
あはれなる御ものかたりも聞えはや。しのひてくれにはいかゝとのたまはせたれは。
慰むときけは語らまほしけれとみの憂事にいふかひそなき
おひたる足にては。かひなくやと聞えつくれは。思ひかけぬに。忍ひていかんとおほして。晝よりさる御こゝちして。日比も御文とりつきてたてまつる。右近のさうなる人しつめて忍ひてめして。ものへいかんとのたまはすれ