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て。唯獨すみイし給ふ。よしなくて御かたにもわたり給はず。かぐや姬の御もとにぞ御文を書てかよはさせ給ふ。御かへりさすがににくからずきこえかはし給ひて。おもしろき木草につけても。御歌を讀てつかはす。かやうにて。御心を互に慰め給ふほどに。三年計有て。春の初よりかぐや姬月の面白う出たるをみて。常よりも物おもひたるさまなり。ある人の。月のかほみるはいむ事とせいしけれども。ともすれば。人まに[もイ]月をみていみじく啼給ふ。七月十五日の月にいでゐて。せちに物おもへるけしきなり。近くつかはるゝ人。竹取の翁につげていはく。かぐや姬例も月を哀がり給けれども。[このイ]頃と成ては。たゞ事にも侍らざめり。いみじくおぼしなげく事あるべし。よく見たてまつらせイ給へといふを聞て。かぐや姬にいふ樣。なんでう心ちすれば。かく物をおもひたる樣にて月を見給ふぞ。うましき世にと云。かぐや姬。見れば世間心細く哀に侍る。なでう物をか歎き侍るべきと云。かぐや姬の有所に到てみれば猶物おもへるけしきなり。是を見て。あがほとけなに事[をイ]思ひ給ぞ。おぼすらむ事何事ぞといへば。思ふ事もなし。物なん心ぼそくおぼゆるといへば。翁。月なみ給そ。是を見給へば物おぼすけしきはあるぞといへば。いかで月を見ではあらむとて。猶月出れば出居つゝ歎きおもへり。夕闇には物おもはぬけしき也。月の程に成ぬれば。猶時々は打歎きなきなどす。是をつかふものども猶物おぼす事あるべしとさゝやけど。おやを始て何事ともしらず。八月十五日計の月に出居てかぐや姬いといたくなき給ふ。人めも今はつゝみ給はず。これをみて。おやども何事ぞととひさはぐ。かぐや姬なく云。さきも申さむと思ひしかども。必