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にこそありけれ。此吹風はよき方の風也。惡敷かたのかぜにはあらず。よき方へおもむきて吹なりといへども。大納言は是を聞入給はず。三四日ふきて吹かへしよせたり。濱をみれば播磨のあかしの濱なり鳧。大納言南海の濱に吹よせられたるにやあらむとおもひて。いきつきふし給へり。舟にある男ども國につきたれども國の司まうでとぶらふにも。えおきあがり給はで。ふなぞこに臥たまへり。松原に御むしろ敷ておろし奉る。其時にぞ南海にあらざりけりとおもひて。からうじておきあがりたまへるを見れば。風いとおもき人にて。はらいとふくれ。こなたかなたの目には。すもゝを二つつけたる樣也。是をみたてまつりてぞ國の司もほゝえみたる。國におほせ給ひてたごしつくらせ給ひて。漸々[によふイ]になはれたまひて。家に入たまひぬるを。いかでか聞けん。つかはしし男どもまいりて申やう。龍のくびの玉をえとらざらしかば。南海へもまいらざりし。玉の取がたかりし事をしり給へればなん。かむだうあらじとて參つると申。大納言起出のたまはく。なむぢらよくもてこずなりぬ。たつはなる神のるいにこそ有けれ。それが玉をとらむとて。そこらの人々のがいせられむとしけり。ましてたつをとらへたらましかば。又とこ[ことイ]もなく我はがいせられなまし。よくとらへずやみなりにけりイ。かぐや姬てふおほ盜人のやつが。人をこるさむとする也けり。家のあたりだに今はとをらじ。男どももなありきそとて。家に少殘りたりける物どもは。龍の玉をとらぬものどもにたびつ。是を聞て。はなれ給ひしもとの上は。はらをきりて斷腸わらひ給ふ。いとをふかせつくりし屋は。とびからすの巢にみなくひもていにけり。世界の人いひけるは。大とも伴イの大