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く。あやしき事哉とわらひて。さるわざするふねもなしと答るに。おぢなき事する船人にもある哉。得しらでかく云とおぼして。我ゆみの力は。龍あらばふといころして首の玉いイとりてん。をそくくるやつばらをまたじとの給ひて。船にのりて海ごとにありき給ふに。いと遠くて。筑紫のかたの海に漕出給ひぬ。いかゞしけむ。はやき風吹て。世界くらがりて。船を吹もてありく。いづれのかたともしらず。舟を海中にまかり入ぬべく吹まはして。波は船に打かけつゝまき入。神はおちかゝるやうにひらめきかゝるに。大納言はまどひて。まだかゝる佗しさめ[はイ]みず。いかならんとするぞとのたまふ。梶とりこたへて申。こゝら舟にのりてまかりありくに。まだかく侘しきめを見ず。御船海のそこにいらば神おちかゝりぬべし。もし幸に神のたすけあらば南海にふかれおはしぬべし。うたてある主のみもとにつかふまつりて。すゞろなるしにをすべかめるかなとかぢとりなく。大納言是を聞ての給く。船に乘ては梶とりの申ことをこそ高き山ともたのめ。などかくたのもしげなき事を申ぞとあをへどをつきての給ふ。かぢ取答て申。神ならねば何わざをかつかふまつらむ。風吹波はげしけれども。神さへいたゞきにおちかゝるやうなるは。辰を殺さんと[求イ]給ふ故にある也。はやても龍のふかするなり。はや神にいのり給へといふ。よき事也とて。梶とりの御神きこしめせ。を[ちイ]なく心おさなく。龍をころさむと思ひけり。今より後は。けのすゑイ一すぢをだにうごかしたてまつらじと。よごとをはなちて。たちゐなくよばひ給ふこと。千度ばかり申給ふけにやあらん。漸々神なりやみ。すこし光て。風は猶はやく吹。梶取のいはく。是はたつのしわざ