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むかし女。ひとの心をうらみて。

 風吹はとはに波こすいは一本なれや我衣手のかはく時なき

とつねのことぐさにいひけるを。聞をよびける男。

 宵ことに蛙のいたくなくなるは水こそまされ雨はふらねと

むかし男有けり。歌はたよまざりけれど。世中をおもひしりたりけるあてなる女の。あまになりて。世中を思ひくわう一本むじて。京にもあらず。はるかなる山ざとにすみけり。もとしたしかりしんぞくたり一本ければ。よみてやりける。

 背くとて雲にはのらぬ物なれと世の憂事そよそになるてふ

昔男ありけり。深草のみかどにつかうまつりけり。そのおとこあだなる心なかりけり。こゝろあやまりやしたりけん。みこたちのめしつかひ給ける人をあひしりにけり。さて朝にいひやる。

 ねぬるよの夢をはかなみまとろめはいやはかなくも成勝る哉

昔。ことなる事なくてあまになれる有けり。かたちをやつしたれども。物ゆかしかりけん。かものまつり見に出たるを男 歌を一本よみてやる。

 よを海の蜑とし人をみるからにめくはせよとも思ほゆる哉

昔男。かくてはしぬべしといひやりたりければ。女。

 白露はけなは消なんきえすとも玉にぬくへき人もあらしを

といへりければ。ねたしと思ひけれど。こゝろざしはいやまさりけり。

むかし男。友だちの人をうしなへるが許にいひやりけり。

 花よりも人こそあたに成にける孰れをさきに戀んとかみし

昔男。しのびてかよふ女有けり。それがもとより。こよひなん夢に見えつるといへりければ。おとこ。

 戀わひて思ひあまり一本出にしたまの有ならん夜深くみえはたま結ひせよ

むかし男。やんごとなき女に。なくなれりける