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せられたるをひろひて。いゑにもとてきぬ。女がたより。そのみるをたかつきにもりて。かしはおほひて出したり。そのかしはにかくかけり。

 わたつ海のかさしにさすと祝ふもゝ君か爲には惜まさり鳬

ゐなかの人の歌にては。あまれりやたらずや。

むかし。いやしからぬ男。我よりはまさりたる人を思ひかけて年へにけり。

 人しれす我戀しなはあちきなくいつれの神になき名おほせん

昔。つれなき人をいかでと思ひ。戀わたりければ。哀とや思ひけん。さらばあす物ごしにてものばかりをいはんといへりけるを。かぎりなくうれしながら。またうたがはしかりければ。面白かりける櫻につけて。

 櫻花けふこそかくも匂ふともあな賴みかたあすのよのこと

といふ心ばへあるらし。

昔。月日のゆくさへなげく男。やよひの晦日に。

 おしめとも春のかきりのけふの日の夕暮にさへ成にける哉

むかし。戀しさにきつゝかへれど。女にせうそこもたせてもせて一本よめる。

 あし[へイ]こくたなゝしを舟幾そたひ漕歸るらんしる人なしに

昔おとこ。身はいやしながら。ふたつなき人を思ひかけたりけり。すこしたのみぬべきさまにやありけん。ふしておもひおきて思ひ思ひてよめる。

 あふな思ひはすへしなのめにけり一本なく高き賤き苦しかりけり

むかしもかゝることありけり。世のことはりにや有けん。

昔。二條の后宮につかうまつる男有けり。女のつかうまつれりけるを見かはしてよばひわたりけり。いかで物ごしにたいめして。おもひつめたることすこしはるけんといひければ。女いとしのびて物ごしに逢にけり。ものがたりなどして。おとこ。