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やしうおもしろき所々おほかりけり。わがみかど六十餘國のうちに。しほがまといふ所ににたる所なかりけり。さればなんかのおきなもめでてしかはよめるなり。しほがまうきしまのかたをつくりけるとなん。

昔。ふか草のみかどの。せり川のみゆきし給けるに。なまおきなの。いまはさることにげなく思ひけれど。もとつきにけることなれば。おほかた[たかイ]のたかがひにてさぶらひ給ひけるを。すりかりぎぬの袂に。鶴のかたをつくりてかきつけける。

 翁さひ雖年七十人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる 行平歟

おほやけの御きそくもあしかりけり。をのがよはひ思けれど。わかゝらぬ人きゝとがめけり。

昔。これたかときこゆるみこおはしけり。山ざきのあなたに水無瀨といふ所に宮ありけり。年ごとの櫻の花ざかりに。かしこへなんかよひ給ひける。その時むまのかみなりける人まいりつかうまつりければ。御供におくらかし給はで。つねにゐておはしましけり。なぎさの院の櫻。ことにおもしろくさけり。木のもとにおりゐて。枝をおりてかざしにさして。みな人歌をよむに。うまのかみなりける人のよめり。

 世中にたえて櫻のさかさらは春の心はのとけからまし

また人。

 ちれはこそいとゝ櫻はあはれなれ何か浮世に久しかるへき

むかし。おなじみこ交野に狩しありき給けるに。馬かみなりける人を。かならず御供にゐてありき給ひけり。れいのごとありき給ふに。この人かめにさけをいれて。野にもていでたり。のまんとてきよき所もとめゆくに。あまの河といふところにいたりぬ。むまのかみおほみきまいる。みこののたまひける。かた野をかり