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しあらねば。心もとなくてまちみれば。あけはなれてしばしあるほどに。女の許より詞はなくて。

 君やこし我やゆきけんおもほえす夢か現かねてかさめてか

男いたううちなきて。

 かきくらす心のやみに惑ひにき夢うつゝとは今宵よひに一本さためよ

とてかりにいでぬ。野にありきけれど心はそらにて。いつしか日もくれなんとおもふほどに。國のかみの。いつきの宮のかみかけたりければ。かりの使ありときゝて。夜ひとよさけのみしければ。もはらあひごともせで。あけばおはりの國へたちぬべければ。男もをんなも。なみだをながせどもあふよしもなし。夜やうやうあけなんとするほどに。女のかたよりいだすさかづきのうらに。

 かち人のわたれはぬれぬえにしあれは

とかきてすゑはなし。てのさかづきのうらについまつのすみしてかきつく。

 またあふさかのせきはこえなん

あくれば。おはりへこえにけり。

むかし男。かりの使よりかへりけるに。おほよどのわたりにやどりて。いつきのみやのわら[はべイ]にいひかけける。

 みるめかるかたはいつこそ掉さして我にをしへよ蜑の釣舟

昔男。伊勢の齋宮に內の御使にてまいれりければ。かの宮にすてこすゝ子一本といひける女。わたくしごとにて。

 千早振神のいかきもこえぬへし大宮人の見まくほしさに

おとこかへし。

 戀しくはきてもみよかし千早振神のいさむる道ならなくに

むかし。そこにありときゝけれど。せうそこをだにいふべくもあらぬ女のあたりをありきて。男のおもひける。

 ありとみて手にはとられぬ月のうちの桂男ののことく一本君にも有かな