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なんありける。さてこのとなりのおとこのもとよりなん。
筒ゐつの井筒にかけし麿かたけ過にけらしな
返し。
くらへこし振分髮もかたすきぬ君ならすして誰か
かくいひて。ほいのごとくあひにけり。さて年ごろふるほどに。女のおやなくなりて。たよりなかりければ。かくてあらんやはとて。かうちのくにたかやすのこほりにいきかよふ所いできにけり。さりけれど。このもとの女。あしとおもへるけしきもなく。くるればいだしたてゝやりければ。男こと心ありて。かゝるにやあらんとおもひうたがひて。ぜんざいのなかにかくれゐて。かの河內へいぬるかほにて見れば。この女。いとようけさうして。うちながめて。
風吹はおきつしら浪たつた山夜半にや君か獨ゆくらん
とよめりけるをきゝて。限なくかなしと思ひて。河內へもおさ〳〵かよはずなりにけり。さてまれ〳〵かのたかやすのこほりにいきて見れば。はじめこそこゝろにく
君かあたり見つゝをくらん伊駒山雲な隱しそ雨はふるとも
といひて見いだすに。からうじて。やまと人こむといへり。よろこびてまつに。たび〳〵過ぬれば。
君こむと云しよことに過ぬれは賴めぬ物のこひつゝそをる
といへりけれど。おとこすまずなりにけり。
昔男。かたいなかにすみけり。おとこ宮づかへしにとて。わかれおしみてゆきにけるまゝに。みとせこざりければ。まちわたりけるに。いと