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 2 都道府県知事は、前項の命令を受けた者がその命令に従わないときは、当該職員にその場所を消毒させることができる。

  (物件の消毒廃棄等)

 九条 都道府県知事は、らい予防上必要があると認めるときは、らいを伝染させるおそれがある患者が使用し、又は接触した物件について、その所持者に対し、授与を制限し、若しくは禁止し、消毒材料を交付して消毒を命じ、又は消毒によりがたい場合に廃棄を命ずることとができる。

 2 都道府県知事は、前項の消毒又は廃棄の命令を受けた者がその命令に従わないときは、当該職員にその物件を消毒し、又は廃棄させることができる。(三ないし六項は省略)

  (国立療養所)

 一一条 国は、らい療養所を設置し、患者に対して、必要な療養を行う。

  (外出の制限)

 一五条 入所患者は、左の各号に掲げる場合を除いては、国立療養所から外出してはならない。

  一 親族の危篤、死亡、り災その他特別の事情がある場合であって、所長が、らい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めて許可したとき。

  二 法令により国立療養所外に出頭を要する場合であって、所長が、らい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めたとき。

  (秩序の維持)

 一六条 入所患者は、療養に専念し、所内の紀律に従わなければならない。

  2 所長は、入所患者が紀律に違反した場合において、所内の秩序を維持するために必要があると認めるときは、当該患者に対して、左の各号に掲げる処分を行うことができる。

    一 戒告を与えること。

    二 三十日をこえない期間を定めて謹慎させること。

  3 前項第二号の処分を受けた者は、その処分の期間中、所長が指定した室で静居しなければならない。

  4 第二項第二号の処分は、同項第一号の処分によっては、効果がないと認められる場合に限って行うものとする。

  5 所長は、第二項第二号の処分を行う場合には、あらかじめ、当該患者に対して、弁明の機会を与えなければならない。

  (物件の移動の制限)

 一八条 入所患者が国立療養所の区域内において使用し、又は接触した物件は、消毒を経た後でなければ、当該国立療養所の区域外に出してはならない。

  (罰則)

 二八条 左の各号の一に該当する者は、拘留又は科料に処する。

   一 第一五条第一項の規定に違反して国立療養所から外出した者

   二 第一五条第一項第一号の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく、許可の期間内に帰所しなかった者

   三 第一五条第一項第二号の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく、通常帰所すべき時間内に帰所しなかった者

 ㈡ なお、新法制定に当たって、参議院厚生委員会により次の附帯決議が附された (以下「新法附帯決議」という。)。

   一 患者の家族の生活援護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護制度を定め、昭和二九年度から実施すること。

   二 国立のらいに関する研究所を設置することについても同様昭和二九年度から着手すること。

   三 患者並びにその親族に関する秘密の確保に努めるとともに、入所患者の自由権を保護し、文化生活のための福祉施設を整備すること。

   四 外出の制限、秩序の維持に関する規定については、適正慎重を期すること。

   五 強制診断、強制入所の措置については人権尊重の建前にもとづきその運用に万全の留意をなすこと。

   六 入所患者に対する処遇については、慰安金、作業慰労金、教養娯楽費、賄費等につき今後その増額を考慮すること。

   七 退所者に対する更生福祉制度を確立し、更生資金支給の途を講ずること。

   八 病名の変更については十分検討すること。

   九 職員の充実及びその待遇改善につき一段の努力をすること。

   以上の事項につき、近き将来本法の改正を期するとともに本法施行に当っては、その趣旨の徹底、啓蒙宣伝につき十分努力することを要望する。

 6 新法の廃止に至る経過等

 ㈠ 昭和二六年、国立療養所の入所者らによって全国国立らい療養所患者協議会 (後に「全国ハンセン病患者協議会」に改称。以下、まとめて「全患協」という。) が結成され、これを中心に、新法成立までの間、強制収容反対、退園の法文化、懲戒検束規定の廃止等を求めて、療養所でのハンストや陳情団の国会での座り込みなどによる激しい旧法改正運動を展開した。

 全患協は、新法成立後も、昭和三八年と平成三年四月の二度にわたって、厚生大臣に対し、強制措置の撤廃等を求める新法の改正要請書を提出した。また、国立らい療養所長で構成される全国国立ハンセン病療養所所長連盟 (以下「所長連盟」という。) も、昭和六二年三月に強制措置の撤廃等を求める新法の改正に関する請願書を提出した。

 しかし、これらは、直接には新法の改廃には結び付かなかった。

 ㈡ その後、元厚生省医務局長で財団法人藤楓協会の理事長である大谷藤郎 (以下「大谷」という。) が新法の廃止を呼び掛けたことが契機となって、平成六年一一月に所長連盟が「らい予防法改正問題についての見解」を、平成七年一月に全患協が「らい予防法改正を求める全患協の基本要求」を、同年四月に日本らい学会が「『らい予防法』についての日本らい学会の見解」をそれぞれ発表し、新法廃止に向けての機運が一気に高まった。さらに、同年五月のハンセン病予防事業対策調査検討委員会の中間報告書においても、新法の廃止を視野においた抜本的な見直しが提言された。

 これを受けて、同年七月、厚生省保健医療局長の私的諮問機閨であるらい予防法見直し検討会 (以下「見直し検討会」という。) が設置され、右検討会は、同年一二月八日、新法や優生保護法のらい条項の廃止等を提言した。

㈢ 厚生大臣は、見直し検討会の右報告を受け、平成八年一月一八日、全患協代表者らに対し、「らい予防法の見直しが遅れたこと、そして、旧来の疾病像を反映したらい予防法が今日まで存在し続けたことが、結果としてハンセン病患者、そしてその家族の方々の尊厳を傷つけ、多くの苦しみを与えてきたこと、さらに過去において優生手術を受けたことにより、在園者の方々が多大なる身体的、精神的苦痛を受けたことは、誠に遺憾とするところであり、厚生省としても、そのことに深く思いをいたし、そして率直にお詫び申し上げたいと思います。」と述べて公式に謝罪し、通常国会への新法廃止法案の提出を表明した。

 ㈣ 新法を廃止し優生保護法のらい条項を削除することなどを定めたらい予防法の廃止に関する法律 (以下「廃止法」という。) が平成八年三月に成立し、同年四月一日に公布施行された。

 なお、廃止法の議決に際し、衆参両厚生委員会により、「ハンセン病は発病力が弱く、又発病しても、適切な治療により、治癒する病気となっているにもかかわらず、『らい予防法』の見直しが遅れ、放置されてきたこと等により、長年にわたりハンセン病患者・家族の方々の尊厳を傷つけ、多くの痛みと苦しみを与えてきたことについて、本案の議決に際し、深く遺憾の意を表するところである。」とした上、「ハンセン病療養所から退所することを希望する者については、社会復帰が円滑に行われ、今後の社会生活に不安がないよう、その支援策の充実を図ること。」という附帯決議がなされた。

 三 原告らの療養所入所歴について

 原告らは、療養所の入所者又は元入所者であって、その入所期間等は別紙一のとおりである。


 第三 本件の主要な争点

 一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意,過失の有無

 二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無

 1 旧法を昭和二八年まで改廃しなかった立法不作為について

 2 新法の制定について

 3 新法を平成八年まで改廃しなかった立法不作為について

 三 損害

 四 除斥期間


第三章 当事者の主張


第一節 請求原因について


(原告らの主張)


第一 総論

 原告らは、国家賠償法が施行された昭和二二年一〇月二七曰から新法が廃止された平成八年三月二八日までの厚生大臣によるハンセン病政策 (絶対隔離絶滅政策) の策定・遂行上の国家賠償責任及び国会議員の立法行為 (立法不作為を含む。) についての国家賠償責任を問うものである。なお、両者の責任は、共同不法行為の関係に立つものである。

第二 厚生大臣の責任

 一 絶対隔離絶滅政策の本質とその特殊性について

 我が国においては、ハンセン病政策として絶対隔離絶滅政策が戦前より新法廃止に至るまで継続されてきた。この絶対隔離絶滅政策とは、患者の人権・人格を無視してその存在そのものを根絶することを目的とし、①家庭内、地域内における分離を超えて、強制的に離島・僻地の療養所に収容して外部との交流を厳しく遮断し、②症状、感染性の有無等を問わずハンセン病患者全員を対象に、③退所を厳しく制限して、終生の隔離を行い、④患者作業及び子孫を絶つための優生手術を強制するという点に特徴を持つ政策であり、世界に例を見ない日本独自のものである。

 また、政策策定・遂行過程において、行政が先行し、国会による立法はそれに追随する形を採り、行政が法律をその手段として政策を遂行してきた点にも特徴がある。

 さらに、絶対隔離絶滅政策は、ハンセン病患者として把握された個々の国民に療養所への入所を義務付けるものであり、個人あるいはハンセン病患者という集団に対する個別具体的な処分の集合的な実質を有している。

 なお、被告は、具体的行為を離れて政策それ自体が個々の原告らの具体的権利、利益を侵害することはあり得ないと主張しているが、原告らは、具体的行為を離れて政策それ自体の責任だけを問うているのではない。絶対隔離絶滅政策は、ハンセン病患者に対する集合処分的性格を有しており、その政策遂行の必然的な因果の流れとして、原告らは療養所に隔離収容され、優生政策の対象となり、患者作業を強いられたのであるから、原告らが具体的権利、利益を侵害されていることは明らかである。また、政策の適用という具体的行為を離れた政策そのものによる被害も厳然として存在しているのである。

 二 絶対隔離絶滅政策の歴史的展開とその一体性

 1 戦前の状況

 我が国の絶対隔離絶滅政策は戦前に確立された。そこでは、公衆衛生という見地からではなく、ファシズムと結び付いた国辱論・民族浄化論を思想的背景として徹底した患者の収容・取締りが行われた。すなわち、強制隔離を定めた旧法を制定し、ハン