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義務を遵守して療養に専念するよう十分指導すること」としている。また、新法一五条については、「この規定の施行の適否は、公衆衛生に重大な影響を与えるものであるから、外出の許可にあたっては、特に慎重を期するとともに、患者に対しては、この規定の趣旨を徹底せしめ、違反することのないよう指導すること」とし、同条一項一号の「その他特別の事情がある場合」を、「患者の家庭における重大な家事の整理等であって本人の立会がなければ解決できない」ような場合に厳しく限定し、かつ、許可を受けて外出する患者に対して「外出許可証明書を交付し、携行させるよう配意すること」としている。さらに、秩序の維持についても、患者が当然に守るべき事項を「患者療養心得」において定め、飲酒、風紀をみだすような言動等の禁止、物品の持ち込み、持ち出し、文書、図画等の配布、回覧、掲出の制限など、私生活にわたる事項も事細かに規制している。

 2 「らい予防法の運用について」と題する昭和二八年九月一六日付け国立らい療養所長あて厚生省医務局長通知

 この通知は、療養所長が入所患者の外出を許可する場合における新法一五条三項の必要な措置として、「着衣及び所持品の消毒、経由地及び行先地における注意事項の指示等により、個々の患者について適当な措置をとること」、「外出の許可期間は必要なる最短期間とし、経由地についても、目的地への最短経路を標準にして定めること」、「外出目的、外出期間、行先地及び経由地を詳細に記載した台帳をそなえつけ、許可の条件に違反したと認められる患者がある場合には、行先地の本人に連絡をする等必要な措置を講ずること」としている。

 3 「らい予防法の施行について」と題する昭和二八年九月一六日付け各都道府県知事あて厚生事務次官通知

 この通知は、新法六条について、「患者が入所するのについて物心両面からの準備ができるよう、本人の病状及びその生活環境を考慮し、それぞれの実状に応じて懇切に説得を行うこと」、「勧奨に応じない者に対しては、法第六条第二項の規定による命令が出されるわけであるが、これは、患者の基本的人権に関係するところも大きいので、直ちに、この命令を発するという措置にでることはなく、先ずできるだけ患者及びその家族の納得をまって、自発的に入所させるよう勧奨し説得すること」、「法第六条第三項の規定により強制入所の措置がとられるのは、患者が入所命令を受けて正当な理由がなく、その期限内に入所しないとき、及び浮浪らい患者、国立療養所からの無断外出患者、従業禁止の処分を受けて、これに従わない患者等につき、公衆衛生上療養所に入所させることが必要であると認められ、しかも入所勧奨及び入所命令の措置をとるいとまがないとき等であること」としている。また、「法第一五条第一項の規定に違反して無断外出した場合、又は外出の許可を受けた者であっても許可の条件 (目的、期間、行先地、経由地等) に違反している場合、その者については、法第六条の規定により、情況によって、入所勧奨、入所命令等の措置をとり、或は入所の即時強制を行いうるものであること。なお、無断外出患者等については、法第二八条の規定により拘留又は科料の刑が科されることになったことに注意すること」としている。

 二 新法改正運動の経過

 全患協は、昭和二八年の予防法闘争に挫折したが、その後も新法附帯決議を軸に療養所内の処遇改善等の運動を継続した。

 そして、昭和三八年には、大規模な新法の改正運動が行われることとなり、次の一九項目からなるらい予防法改正要請書が作成された。

 1 「らい予防法」を「ハンセン氏予防法」と改められたい。

 2 「目的」(一条) 及び「義務」(二条) の中に治癒者の更生福祉を明確にされたい。

 3 「医師の届出」(四条) は指定医の診断による患者のみにされたい。

 4 「指定医の診察」(五条) は強制診察にならないように改められたい。

 5 「国立療養所への入所」(六条) は、強制入所にならないよう改め入所でき難い者には指定医療機関を設けて管理できるようにされたい。

 6 「従業禁止」(七条) は期間を定め、その範囲を最小限度にとどめ禁止期間の補償をされたい。

 7 「汚染場所の消毒」「物件の消毒、廃棄等」並びに「質問及び調査」(八条ないし一〇条)は廃止されたい。

 8 BCG接種による予防措置を法文化されたい。

 9 医療の確立を期するために、その具体的措置を法文化されたい。

 10 治癒した者には証明書を交付されたい。

 11 「国立療養所」は、医療システムを確立し、医学リハビリテーションを行われたい。

 12 入所者の外出 (一五条) は、予防上重大な支障をきたす恐れがある者を除いては、制限をしないように改められたい。

 13 「秩序の維持」(一六条) に関する特別の規制は廃止されたい。

 14 「物件の移動の制限」(一八条) は廃止されたい。

 15 退所者の保障を法文化されたい。

 16 各都道府県に指定医療機関を設け、在宅患者の医療を行われたい。

 17 「親族の援護」(二一条) に医療扶助を加え、在宅患者並びに退所者にもこれを適用されたい。

 18 現行法「第二七条」二項より七項「第二八条」を廃止されたい。

 19 「優生保護法」の中のらいに関する規定を削除されたい。

 全患協は、新法改正運動の一環として、まず、同年八月、厚生省、衆参両議院の社会労働委員等に対する陳情を行った。この際、若松厚生省公衆衛生局長は、全患協の陳情団に対し、「昔と現在のらいの状態は、学問の進歩によって大きく変ってきている。(中略)ママ学問の進歩に伴って予防法を改正するのは当然であるが、長い伝統があるので一挙に国民の理解を得ることは難かしいし、結核より伝染力が弱いからといっても一ぺんにそこまでかえることは難かしい。」、「昔の政策が誤っていたからと云って、今責任をとれと云われても難かしいし、わたしとしても国の政策が誤っていたと考えていない。尚、予防法は進歩した医学に基づいて改正したい。しかし改正しなければ何事も出来ないということではなく、出来ることはどんどんやって行きたい。」と述べた。

 また、同年一〇月には、厚生省、大蔵省及び参議院社会労働委員に対する陳情が行われ、厚生大臣及び参議院社会労働委員全員に新法の改正要請書を提出された。この際、小西宏厚生省公衆衛生局結核予防課長は、「三九年度にらい予防制度調査会を作るべく予算要求している。その調査会において制度の改正について考えたい。」、「長く続いている制度を替えることは時間がかかる。厚生省としても早く改正したいと思うが、長く療養所に関係している者の頭が変らないから難かしい。」、「偏見除去については、予算をとることがPRになり、法律改正とPRは表裏一体と考えている。」と述べた。

 さらに、昭和三九年三月には、国会議員及び厚生省に対するより大規模な陳情が行われた。この際、長谷川保議員は、「患者さんもこのように治るようになったので、政府も早急に法改正に努力しなければならない。」と述べ、また、田口衆議院社会労働委員長は、同委員会開会中に陳情に訪れた全患協の代表に対し、「このような予防法があることは国として恥かしい。いっぺんにはいかないが長谷川さんとも相談して、一歩一歩よくなるように努力したい。」と述べた。他方、小林厚生大臣は、「公衆衛生局長から種々の学術書を読ませられており、役所の者も進んだ考え方を持っているが、一挙に予防法を改正することは問題がある。世の中の偏見を無くすることは急にはいかない。また法改正だけでは不充分で法律以外にも努力する途があるように思う。」と述べた。また、若松厚生省公衆衛生局長も、「最近の新しい医学の進歩はよく知っているが一挙に改正しては世間の理解が追いつかない点もあるので、小さい改正を何回か積重ねて、その後で大きく改正する方が一般の人に不安なく受け入れられると思う。」と述べた。

 しかしながら、この運動は、新法改正には結び付かず、平成八年に至るまで、新法の改正法案が提出されたり、国会で新法の改廃について審議された形跡はない。そして、二度にわたる運動の挫折や入所者の高齢化もあって、その後の全患協の運動の重点は、新法の改正要請から療養所内での処遇改善に向けられるようになった。

 三 退所について

 1 退所者の現れ

 戦後、プロミンの治療効果によって療養所内の菌陰性者が増え、昭和二三年には二六パーセントであった菌陰性者の割合が、昭和二五年には三七パーセント、昭和三〇年には七四パーセントまでになり、多くの症状固定者、治癒者が現れるようになった。

 これに伴い、昭和二六年に全国で三五人の軽快退所者を出し、以降、次第に軽快退所者が増加していった。昭和二六年以降の軽快退所者数は、別紙六のとおりである。

 2 暫定退所決定準則

 ㈠ 暫定退所決定準則の内定

 厚生省は、昭和三一年に「らい患者の退所決定暫定準則」なる文書を作成し、各療養所長に示した。その記載内容は、次のとおりである。

 らいの治癒又は略治、その再発並びに伝染のおそれの有無の判定は、現段階においてはかなり問題とされる点がある。これがため従来各国立療養所における患者の退所決定にあたってその基準が区々となり、その結果、不測の紛議が生じた例もあるので、次のように暫定的に退所決定準則を定める次第である。

 本症の特質に鑑み、本準則はあくまでもその必要最小限を示すものであって各療養所長が本準則よりも一層高度のものを定め、それに基いて退所の決定を与えることを妨げるものではなく、また本準則を定めたことによって積極的に患者の退所を行わせる意図を含むものでもない。また、本準則の実施によって将来是正すべき諸点を発見する場合も絶無とは云い難いので、本準則は厳秘としてあくまで療養所長単独の資料として活用し、部内外に対して漏示しないよう固く留意されたい。

  ⑴ 斑紋型及び神経型

  (イ) 病状固定を判定するためには、少くとも一年以上の期間について観察すること

  (ロ) 皮疹が消褪してから一年以上当該部位における知覚麻ヒママが拡大しないこと

  (ハ) (ロ)の知覚麻ヒママの拡大がなくなってから二ヶ月に一回ずつ皮疹の消褪した部位のなるべく多数のところからスミヤーを作って検鏡し三回以上ことごとくらい菌陰性であること

  (ニ) 大耳、正中、尺骨、橈骨、後脛骨、各神経及びその他の皮膚神経の腫脹が著明でないこと

  (ホ) 光田氏反応 一〇×一〇ミリメートル以上であること

  ⑵ 結節型

  (イ) 病状固定を判定するためには、少くとも二年以上の期間について観察すること

  (ロ) らい性結節及びらい性浸潤が吸収され消失していること

  (ハ) (ロ)のらい性結節及びらい性浸潤が吸収され、消失してから二ケ月に一回ずつ結節又は浸潤のあった部位のなるべく多数の所からスミヤーを作って検鏡し六回以上ことごとくらい菌陰性であること

  (ニ) (ハ)の検査でらい菌陰性であった場合更に結節又は浸潤のあった部位の一ヶ所以上からバイオプシーを試みてらい菌陰性であること

  (ホ) その他斑紋型及び神経型の検査方