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る等の措置が特例的にとられることと相なっておるのであります。」と説明された。

 2 衆議院における審議

 衆議院では、まず、昭和二八年七月三日及び同月四日の二日間、厚生委員会において審議が行われた。

 この中で、曾田長宗厚生省医務局長 (以下「曾田局長」という。) は、「癩を伝染させるおそれがあるものについて、癩予防上必要があると認めるときに限ってこの積極的な勧奨をいたすということになっておりますので (中略)ママこの必要以外の者で入所を希望しない者は、入所の義務がないということになるわけでございます。、ママ「(ただ、入所義務がない) にもかかわらず本人が希望して在所いたしますという場合には、将来他にそういういわば回復者の収容施設というもの、これは予防上の見地というよりも、むしろ純粋に社会福祉的な施設というようなものが設けられるようになれば、そういう施設に収容さるべき人たちであると思うのでありますが、また私どももそういう施設が将来においては必要になって来るものと予想いたしておりますが、今曰においてはまだそういう人たちは数がきわめて少うございますので、非常にお気の毒ではありますが、もしも御本人が希望されるならば、一般の患者と同じ規律に従っていただきたいということになっております。その規律に従うことが意に反するならば、さような方々は自由に退所できるということになっております。」と述べている。ただ、伝染のおそれの有無の判断については、「感染の危険性がある者、ない者というふうに、はっきりわけるわけにも行かない」、「ただちに採用し得る基準が求められない」と述べている。また、山ロ正義厚生省公衆衛生局長 (以下「山ロ局長」という。) も、「感染の危険性というものは相対的なもので」とし、伝染の危険性のない患者は「非常に数が少いママ」と述べている。

 他方、山口局長は、治療について、「最近の医学の進歩によりまして、治療が非常に進歩して参りましたので、相当これは――全然菌をなくし得るかどうか、全治ということにつきましては異論もございますが、非常に軽快させ得るものであるという立場に立ってこれを取扱っております。」、「プロミン注射によりますと結節、浸潤などは、効果は治療開始後一箇月前後から現われて参りまして、六箇月前後で非常に軽快いたします。」と述べている。

 衆議院厚生委員会は、以上の審理を経た上、同日、自由党及び改進党の議員が賛成意見を、日本社会党の議員が反対意見を述べ、採決により多数をもって原案どおり可決すべきものと議決した。

 これを受けて、同日、衆議院において、らい予防法案が採決され、賛成多数で可決された。

 3 次いで、衆議院かららい予防法案の送付を受けた参議院では、昭和二八年七月六日から厚生委員会において審議が行われた。

 この中で、山口局長は、同月九日の厚生委員会において、「伝染させるおそれ」の解釈について、「らい菌を証明いたしますか、或いはらい菌を証明いたしませんでも、臨床的にらい菌を保有すると認められる患者 (中略)ママ例えば皮膚及び粘膜にらい症状を呈するもの、神経らいで神経の肥厚を伴うもの、神経らいで肥厚を認めないけれども、萎縮麻痺を認める、それが限局していないというようなものを考える」と述べている。また、曾田局長は、「例えば菌が一回、二回或いは一ヵ月というような程度証明されませんでも、まだその二ヵ月後、三ヵ月後に出る虞れがあるというふうに考えられます限り、病院としては感染の虞れが全くなくなったというふうには断定いたさないような状況であります。」と述べている。

 また、山口局長は、伝染させるおそれがある患者の扱いについて、「やはりどうしてもそれが療養所に入所を肯んじないようなときには無理にでも入所させて治療を受けさせ、そうして公衆衛生上の害を取除かなければならないというふうに考えておるのでございます。」、「伝染させる虞れがあるという患者はやはり収容するという方針をとるわけでございます。」と述べ、伝染させるおそれがある患者がそのまま入所の対象になるとの見解を明らかにしている。また、山縣勝見厚生大臣 (以下「山縣大臣」という。) は、強制入所について、「やはり勧奨によってできるだけやりたい (中略)ママ抜かざる宝刀によりまして空文に帰しましたら結構なことでありまするが」と述べつつも、勧奨にどうしても応じない場合のために強制収容の規定が必要である旨述べている。これに対して、山下義信議員は、「伝家の宝刀ということは極めてあいまいだ。(中略)ママいつでも伝家の宝刀をひらめかし、聞かなければ強制収容するぞと (中略)ママその実態は強制じゃないですか。」などと批判している。

 他方、曾田局長は、治療について、根治させることができると断定することはまだまだ難しい段階にあるとしながらも、「プロミンその他の新らママしいらい治療剤が広く使用されるようになりまして、患者の治療成績は非常に上って参りました。で、恐らく戦前の状況に比べますれば、著るママしい効果を挙げつつあるということが申上げられると思います。殊に病気の進行をとどめまして、病気を抑えるという意味におきましては極めて顕著な効果がある。」と述べ、山口局長も、同旨の答弁をしている。藤原道子議員は、「治療よろしきを得るならばこれは退院することができるのだ。こういう時代になってこれがもう我々の間では常識になっている」と述べている。

 また、廣瀨久忠議員は、「日本のらい患者の数がだんだんに数は減りつつあるという実情もある」と述べている。

 ところで、山口局長は、「先般医務局長が出席されましたWHOの総会におきましてらいに関する特別委員会の報告がございますが」と述べており、厚生省が当時既にWHO第一回らい専門委員会の報告を入手していたことが明らかであるが、その内容については「患者の収容ということについて強制力をどの程度使うかということについては、その国々の状況によって異なるというふうになっている」という程度の極めて不十分な説明に終わっている。

 厚生委員会では、退所規定を設けるなどの修正案が検討されたが、結局、各党派の意見調整ができず、改進党、自由党、緑風会等の議員が賛成意見を、日本社会党の議員が反対意見を述べ、採決により多数をもってらい予防法案を可決すべきものと決定されるとともに、新法附帯決議が全会一致で採択された。

 これを受けて、同年八月六日、参議院において、らい予防法案が採決され、賛成多数で可決された。

 4 衆参両議院での審議を通じて、病型によって伝染の危険性の程度に差があることは議論に上っているが、そもそもハンセン病が伝染し発病に至るおそれの極めて低い病気であるということに着目した議論はほとんどなされていない。

 一〇 「伝染させるおそれがある患者」の解釈

 新法六条一項等の「伝染させるおそれがある患者」についての厚生省の解釈は、前記九3の山口局長の答弁からすれば

  ①らい菌を証明するか、又は

  ②臨床的にらい菌を保有すると認められる者 (例えば、皮膚及び粘膜にらい症状を呈する者、神経らいで神経の肥厚を伴う者、神経らいで神経の肥厚を認めないが知覚麻痺・筋萎縮がありそれが限局していない者)

ということになる。

 この解釈は、昭和二八年八月一九日付け法務省入国管理局長あて厚生省医務局長回答にもそのまま反映されている。すなわち、右回答では、病状の進行が停止している神経らい患者のうち、「菌を証明せず且つ神経の肥厚がなく、知覚麻痺及び筋萎縮が限局性、停止性で少範囲にしか認められない」者を、伝染の危険がない者として隔離を行わないと回答しているのである。

 なお、昭和二九年ころ作成されたとされる「らい患者伝染性有無の判定基準」と題する書面には、次の記載がある。

 1 らいを伝染させる恐れのある患者とは、

 らい菌を証明する者及びらい菌は証明しないが活動性のらい症状を認める者

 2 らいを伝染させる恐れのない患者とは、

 相当の期間にわたってらい菌を証明せず、且つ活動性のらい症状を認めない者

 3 活動性のらい症状とは、

 ㈠ 皮膚及び粘膜にらい症状のあるもの

 ㈡ 神経らいで神経の肥厚の著明なもの

 ㈢ 神経らいで麻痺及び筋萎縮の著明なもの

 右書面の基準によれば、山口局長の答弁や右医務局長回答の基準よりも、「伝染させるおそれがある患者」の範囲がわずかに狭くなるが、右書面の体裁等からみて、この書面の基準が厚生省の正式な解釈基準として各療養所長や都道府県知事、新法五条の指定医師に周知・徹底されていたとは認められない。

 いずれにしても、未治療のハンセン病患者は、病型のいかんを問わず、何らかの皮膚症状や神経症状を呈することによってハンセン病であると診断されることがほとんどなのであるから、曾田局長や山口局長も認めるように (前記九2)、ハンセン病であるとの診断を受けながら、厚生省の基準によって「伝染させるおそれがない」と判断される未治療の患者は、ほとんど存在しないと考えられる。昭和二四年から昭和六一年まで国立らい療養所で勤務していた元松丘保養園長荒川巖 (以下「荒川」という。) は、意見書において、新法は条文上感染のおそれがある者のみを収容することとなっているが、現実の運用は、ハンセン病と診断されれば、感染のおそれがあるかどうかにかかわらず入所させなければならなかったと述べている。

 また、厚生省は、いったん「伝染させるおそれがある患者」と認められた者が、治療を経るなどして一度や二度の菌検査で陰性となっても、直ちに伝染のおそれがない患者になるとは考えておらず、相当長期間の経過観察による厳格な審査を経なければ、伝染のおそれがない患者とは判断されないとしている。この考え方は、参議院厚生委員会における曾田局長の答弁 (前記九3) に端的に現れており、後述する「らい患者の退所決定暫定準則」にも反映されているのである。

 被告は、昭和二八年七月八日の参議院厚生委員会において曾田局長が伝染のおそれの判断を厳格に行う旨言明していると主張する。確かに、曾田局長は、同日に「入所いたします場合には入所を強制しなければならんというに足りる相当確たる根拠がなければならん問題でありまして、この入所を命じますときにはより厳密なと申しますか、確かに感染の虞れがあるということがかなり高い程度に至りませんと必ずしも強制はしないというような立場をとっております。」、「入りますときにはらいの患者で、感染力のあるらいの患者であることが十分確実でなければこれを強いない。」と答弁している。しかしながら、その翌日である同月九日の山ロ局長の答弁が前述のとおりなのであるから、厚生省の伝染のおそれの解釈は限定的なものとは到底評価し得ない。なお、曾田局長は、同月八日において、「患者が十分治りきったというふうに断定するのによほど慎重にかからなければ、逆の意味で慎重に考えなければなりません」とも答弁しているのである。

第三 新法制定後の状況について

 一 新法制定後の通達の定め

 ハンセン病患者に対する隔離政策は、新法制定により継続されることになり、細目的事項が次のとおり通達によって定められた。

 1 「らい予防法の施行について」と題する昭和二八年九月一六日付け国立らい療養所長あて厚生事務次官通知

 この通知は、「患者に対しては、この疾病についての国の施策の趣旨をよく理解させ、外出の制限その他患者として守るべき