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確な証言をし得たものと判断される。
 ただし、本件白ズック靴についても、

問 靴を受取って見た時何処かの部分に汚点がなかったか。
答 全部見ましたが、紐以外の部分には見当りませんでした。
問 又切り取って居た個所もなかったか。
答 全然そんな個所がありませんでした。
問 靴の底が切り取られてあったのではないか。
答 底の部分に白くすれて居た個所がありましたが、その他は何もありませんでした。当時の警察官は松木博士の処へ持って行き見て貰ったと丈け言いました。
問 証人が見た個所は。
答 紐一点丈けでした。
問 その他に汚点がなかったと考えるのか。紐以外の部分には付着して居ても判らなかったのか。
答 紐が一番目につきましが、残りの部分は気がつきませんでした。
問 紐以外の部分について居たと言ふことは断定出来ないのか。
答 はい断定出来ません。

旨(前記第二、一、2記載のとおり、本件白ズック靴は松木医師の検査の際に一部切りとられている。)事実に反する証言をしており、最も入念に検査した本件白ズック靴についてさえ、不正確な証言をしているのである。引田医師の証言の証拠評価には慎重を要すると言わざるを得ない。
  ㈡ ところで引田医師は、同人がみた海軍シャツ付着の斑痕を新旧は別としてそもそも血痕様のものと判断していたのか否かについてみると、前記証言からも明らかなとおり、海軍シャツにほとんど関心を示していなかったことが理解でき、第一審ではその斑痕について

問 シャツについて居た汚点の色は。
答 褪灰暗色の状態のものでした。
問 証人が鑑定した路上の血痕とは色からしても違って居たか。
答 著名に違って居ました。

旨証言していた。
 ところが、昭和二六年七月三一日(第二審)公判廷においては

問 開襟シャツに血液らしいものはついていたかどうか記憶はないか。
答 あせた様な褐色の斑痕が左の肩の辺に二、三点あった記憶があります。
問 肩辺というのは肩の上の方か。
答 左の肩から胸にかけて赤褐色とは思われない帯灰暗色様のものでした。その個所にあったかどうかは記憶ありません。
問 帯灰暗色というのはどんな色か。
答 灰色がかったあせた様な黒ずんだ色という意味で、私は帯灰暗色という言葉が一番感じがでるので、此の言葉を使っています。
問 証人は夫は血痕だと思ったか。
答 私は経験からこれは場合によっては血かも知れないから是非検査して見る必要があると思っていました。

旨証言しているのであるが、そうであれば、まさにまず第一に証言するところの海軍シャツについてルミノール検査を実施したはずであり、右証言は、にわかに信用し難い(前述したとおり、本件白ズック靴、同海軍シャツ以外には、素人目でもよごれによる汚斑は格別、血痕様の斑痕は認められなかったのである。)。
 そして昭和五一年四月二六日(再審)公判廷において、

私は開襟シャツというふうに記憶しておりますが、四点あったかどうかこの点ははっきりしませんが、海軍シャツのところに、まあ肉眼的には血痕とは認めがたいような斑点がついておったという記憶はあります。

旨証言しているのであり、そうでなければ、引田医師の前記行為は理解し難い。引田医師は同人がみた海軍シャツ付着の斑痕を血痕様のものとは判断していなかったのである。まさしく本件海軍シャツは、引田医師のもとに運び込まれてはいないのである。同医師のもとに運び込まれたのは、シャツについていえば、本件海軍シャツと同型のもの三枚、類似するもの(進駐軍放出ワイシャツ一着、白ワイシャツ一枚、白半袖開襟シャツ二枚、ランニングシャツ一枚)五枚、合計八枚であった(本件海軍シャツは、前記第一、五、1記載のとおり既に松木医師のもとで鑑定のため一部切りとられていたのであるから、右シャツを見分しながら検査を実施しなかったとは解し難い。もとより引田医師は右切りとり跡について証言するところがない。)。
  ㈢ 更に引田鑑定書について検討する。右鑑定書には鑑定を実施した物件として、浴衣、白ズック靴、革バンド(細い方)、靴下どめの順で記載されているから、 引田医師は右の順に鑑定を実施したとみられる。本件ズック靴は、前記のとおり引 田医師から検査実施の連絡を受けた捜査本部が、他物件と別途同医師のもとに持参したことに鑑みると、同医師は、まず、浴衣の検査に着手し、本件白ズック靴の到着したところでこれを検査し次いで革バンド、靴下どめの順で実施したとみられる。そうしてみると浴衣は八月二四日任提領置したもの、革バンドは細い方と特定しているから、鑑定物件の革バンド二本共見分したとみられ、右革バンドは、一方は前同日任提領置したものであり、他方は同月二三日押収したもの、靴下どめは領置調書上明瞭ではないが、前同日押収した靴下に付いていたものと解されるから、右事実をみる限り、引田医師は鑑定物件を領置順(鑑定物件が領置順に整理されていたことの証左でもある。)に検査を実施したとみられる。
 同医師は、「まあ、私としてはそう持ってこられた以上はこれは全部、一応、目を通しまして、そこでまあ斑痕があるとすればそれについて調べると、そういうつもり でとりかかりました。」「まず、一応疑わしいものから検査していかなければ、たくさんの検査物がありましたので、とにかく、一番疑わしいと、検査しなければならない というものから検査していきました。」旨証言するが、にわかに措信し難い。前記の如き手順で検査を実施したからこそ、検査未了である海軍シャツの印象が極めて薄弱