よろ長い仮面の男を引捉へて、荒々しくその経帷子や死相の仮面を剝してみると、その男を形作つてゐた物は、これと言つて手に触れ得ない只の空つぽである事を知つて、人々は一言も発し得ない戦慄に襲はれた。
これこそ「赤き死」であると言ふ事が遂々認められるに到つた。彼は夜盗のやうに忍び這入つて来たのだ。饗宴者は一人一人相次いで、血汐に濡れた歓楽の床に仆れた。さうして断末魔の悶掻をしてそのまま息絶えて行つた。かの黒檀の大時計の刻も遊宴者の最後の一人が息を引取ると共に止んだ。三脚架の焔も消えた。さうして闇黒と頽廃と「赤き死」とが恣ままに、万物の上に跳梁した。