左右に分れた時まためい〳〵見知らぬ他人となる 自分の生活に各々歸つて行く足は 劍難な生活をも踏み越え踏み耐えてゐる足だ 演壇の野心家芝居の毛ずねとは異ふ。
斷 片 52
その男には生きてゐた間中冷酷であつたやうに一通のくやみ文を送らなくて好いのである その男は殺されなかつたのがもうけものなのであつた 彼は我等を踏み荒した足の下に僅か許りのみぢめさを當然殘したに過ぎない 死に一滴の淚を見せることは常に我々の生活を虛僞にゆるめる