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して、寧ろ主副の如し。今日の介錯は多紀善三郞の門弟にして、劍道の達人たるが故、多數の友人中より特選せられたるものなり。

 多紀善三郞は左に介錯を從へ、徐に日本の檢使の方に進みて、兩人共に一揖し、更に外國役人に近いて、同じく拜禮す、其狀更に丁重なるものゝ如し。當方よりも亦た一一恭しく答禮す。終りて善三郎は靜々と威儀あたりを拂ひつゝ、高座に上りて、佛前に平伏すること兩次、了つて佛壇を背後にし、毛氈に端坐し、介錯は其左方に踞る。三人の附添役人の中、一人は軈て、九寸五分の短刀を白紙に包みて、其尖端をのみ露はしたるを三寳に載せて運び出で、一禮ありて善三郞に渡せば、恭しく之を受け、雙手にて