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此れ無くんば人は禽獸なり、此れを毀損するは耻辱なりとしたり。故に少年を敎ふるに、先づ廉耻を養ふことを以てせり。少年の愆あるを正し、其非を悔いて、善に遷らしめんとするには、『嗤はるべし』、『耻を負ふべきぞ』、『汝何んぞ之を愧ぢざる』など云ふは、其効最も著しき訓戒にして、名譽の念に訴ふるの、小兒の銳敏なる感覺に觸るゝこと、恰も猶ほ母胎を出でざるの日よりして、業に已に此念を以て養はれたるものゝ如くなりき。洵に名譽とは人の未生以前より享けたる感化にして、此に結ぶには、强力なる家系的自覺のあるありき。バルザツク曰はずや、『家族の團結を失ひてより、社會はモンテスキユーが所謂名譽てふ根本力を喪ひたり』と。實にや廉耻の心は、人類が德義を覺るに至る