狐速にゑじきになしぬ、其時かの鳩をどろきて、木の上にすをかけゝり、然るを隣りのはと敎へけるは、扨も御邊はつたなき人也、今より以後、狐左樣に申さば、汝此所へあがれ、あがる事かなはずば、全我子をはたすべからずとのたまへといへば、實もとて云ければ、きつね申けるは、いまよりして御邊の上に、さはがすること有まじ、但賴申べき事有、其いけんをばいづれの人よりうけさせ給ふぞと申ければ、鳩つたなふして、しか〴〵の鳥とこたふ、ある時かの鳩に敎ける鳥、下に下りてゑじきをはみける所に、狐近付て云、抑御邊世にならびなきめで度鳥也、尋申度こと有、其故はねぐらにやどり給ふ前後、左右よりはげしき風吹時は、いづくに面をかくさせ給ふやと申ければ、鳥こたへて云、左より風ふく時は、右のつばさにかへりをさし、右より風吹時は、左のつばさにかへりをさし候、前より風吹時は、後にかへりをさし候、後より風吹時は、前にかへりをさし候と申、狐申けるは、天晴其事自由にし給ふにおゐては、誠に鳥の中の王たるべし、但虛言やと申ければ、彼鳥、さらばしわざを見せんとて、左右にくびをめぐらし、うしろをきつと見るとき、狐走りかゝりてくらひ殺しぬ、其如く、日々人に敎化をなす程にならば、先我身を修めよ、我身のことをば
第二十九 出家とゑのこの事
或人、