ある人、一つの佛像を安置して、常に名利福祐を祈る、日にそひて貧しくいやしくなれ共、更に其利生有事なし、是によつて彼人いかつて、佛像取て打くだく處に、其佛のみぐしの中に、金子百兩有けり、其時彼人佛を祈て云、扨も此佛、をろかなるほとけかな、我常に香花灯明を備て、經禮拜する時は、此金をあたへずして、其身を亡す時は、福を定けるよと笑慶けり、其如く、惡に極りたる者は、其自然を待善に立歸ことなし、をさへて佛をわるがごとく、惡を善にひるがへす樣にすべし、
第十六 ねずみと猫との事
ある猫、家の傍にかゞみゐて、日々に鼠を取けり、鼠出申けるは、何とやらん此程は、我親類一族も行方知ず成侍るぞ、誰か其行衞を知給ふと云、こゝに年たけたる鼠、すゝみ出申けるは、音高ししづまれよ、それは此程、例の猫と云徒者此內に來て、ゑじきになし侍るぞや、かまひて油斷すななどと申ければ、各せんぎ評定す、然るにおゐては今日よりして、各天井に計住べしと法度す、猫此よしを聞て、いかん共せん方なさに、たばからばやと思ひて、死たる體を顯して、四足をふみのベ、久敷はたらかずしてゐける處を、鼠ひそかに此ことを見て、上より猫に申けるは、いかに猫、そらだまりなしそ、汝が皮をはがれ、文匣の蓋に成共、下にさがる間敷ぞと云ければ、猫ぜひに不㆑及おきあがりぬ、其如く、一度人をこらす人は、いつも惡人ぞと人是を疎ず、只人は愚にして、他人にぬかれたるにしくはなし、かまひて末の世に、人をぬかんと思はじ、
第十七 ねずみども談合の事
あるとき鼠、老若男女相集、せんぎしけるは、いつも猫と云徒者に亡さるゝ時、千度くやめ共其益なし、彼猫聲を立るか、然らずばあし音たかくなどせば、かねて用心すべけれ共、ひそかに近付程に、ゆだんしてとらるゝのみ也、いかゞせんと云ければ、古老の鼠すゝみ出申けるは、詮ずる處、猫の首に鈴を付て置侍らば、易知なんと云、皆々尤と同心す、然らば此內より誰出てか、猫の首に鈴を付給はんやと云に、上臈鼠より下鼠に至迄、我付んと云物なし、是に依つて其度の議定、事終らで退散しぬ、其如く、人のけなげだて云も、たゝみの上の廣言也、戰塲に向へば、常につはも