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我子をつれて歸ける、狼是をば事共せず、たゞ今こそしける共、又こそと思ひ、かしこにかけまはるほどに、野邊に野牛二疋居たり、狠これをみて是こそと思ひ、野牛に向て申けるは、汝が內一疋、我ゑじきにすべしと申ければ、野牛謹で、ともかくもにて侍る也、こゝに申べき子細有、久敷諍事あらそふことの侍れば、御さいばんを以て後、何ともはからはせ給へかしと申ければ、狼何事ぞととふ、野牛答云、此野をふたり諍候、但給ふべき人なきによつて、勝負を付けがたく候、然らずば我等二疋、向より御そばへはしり來り候べし、疾はしり付たらん者に、其理を付させ給へと云、とくと申ければ、野牛向より左右に走りかゝり、角にて狼のふとばらをかき切て、其身は山にぞ入にける、狼疵をかうぶりて、こは仕合わろき事かなと、はないきならしてそこを過ぬ、又川の邊に、ぶた親子あそび居ける所を、是こそと思ひ、ぶたに向て申けるは、汝が子をゑじきとすべし、心得よと申ければ、ぶた心えて云、ともかうも御はからひにまかせ侍るべし、但我子は未だ幼少に候へば、かいえんをさづけず候、見申せば御出家の御身也、御結緣に戒をさづけ給へかしと望みければ、ほめあげられて、さらばとて橋の上にのぼりて、こゝに來れと申けるを、ぶた我子をつれて行ほどに、つとよりて、橋より下へつきおとし、我身は家にぞ歸ける、狼うきぬしづみぬながれて、やうとはいあがり、あら夢見あしやとぞいひける、

第八 鳩と蟻との事

ある川の邊に、蟻あそぶこと有けり、俄に水かさまさりきて、彼蟻をさそひ流す、うきぬしづみぬする所に、鳩木末より是を見て、あはれなる有樣かなと、木末を少くい切て、河の中におとしければ、蟻是にのつて、なぎさにあがりぬ、かゝりける所、或人竿のさきにとりもちをつけて、はとをさゝんとす、蟻心に思ふやう、只今の恩を送らう物をと思ひ、人の足にしつかと喰付ければ、おびえあがつて、竿をかしこになげ捨て、其者の色や知る、〈誤脫カ〉然るに鳩是をさとつて、何國共なく飛去ぬ、其如く、人の恩をうけたらん者は、いか樣にも其むくひをせばやと思志を可持、

第九 おとかみと犬との事

ある時はすとる、羊のけいごに犬を持けれど、ゑじきをすなほにあたへざれば、瘦衰へてありける、狼此よ