事なくて、あまつさへ我等を召つかふ業をなんしける、言語同斷
第三十七 人とろばの事
或時、人驢馬に荷をおふせて行に、此ろばやゝもすれば、行なづむこと有、此人奇怪なりとて、いたくむちをおふせければ、ろば申けるは、かゝるうきめに逢んよりは、しかじ、たゞしなばやとぞ申ける、彼人猶いたくいましめて追やる程に、行つかれて終に命終りぬ、彼人々心におもふ樣、かゝる
第三十八 狼とはすとるの事
ある狩人、狼かり行けるに、此狼木蔭にかくれ居れり、然をはすとるの見付てける、それによて、此狠はすとるに向て申けるは、我命をたすけ給へ、ひたすらたのむ、それははすとるやすくうけごふ、狼心やすく居ける處に、狩人來てはすとるに申けるは、此邊に狼や來ると尋ねければ、はすとる目づかひにてこれを敎ける、狩人彼所をさとらず、はるか奧に行すぎたり、其後狼罷出、いづく共しらずにげ去ぬ、あるとき此狼はすとるに行あひけり、はすとる申けるは、わごぜはいつぞや助ける狼かといへば、狼答云、さればとよ、御邊の事はよかんなれど、御邊の眼はぬき捨度侍るとぞ申ける其如く、我も人も、外に能事をする顏なれ共、內心甚惡道なれば、彼はすとるに不㆑異、速に內心の隔を
第三十九 猿と人との事
むかし正直なる人、そらごとのみいふ人と有けり、此二人猿の有所に行けり、然るにある木のもとに、猿共