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川に落ち入音、底に響きておびたゞし、此こゑにおそれて、蛙共水中に沉みかくる、しづまつて後、汚泥をでいの中より眼を見上、何事もなきぞ、まかり出よとて、各々なぎさにとびあがりぬ、扨此はしらを圍繞ゐねうして、我主人とぞもてなしける、無心の柱なれば終にあざけりて、各此上に飛あがり、又天道にあふぎけるは、主人は心なき木也、同は心あらん物をたべかしと祈をれば、憎い奴原しやつぱらが物ごのみかなとて、此度はとびを主人にあたへ給ふ、主人に依て、蛙彼はしらの上に上る時は、とび是を以て餌食とす、其時蛙千度後悔すれ共かひなし、其ごとく、人はたゞ我身にあたはぬ事をねがふ事なかれ、始より人に從ふものゝ、今更獨身にならんもよしなき事也、また自由に有ける人の、主人を賴も僻事也、只夫々にあたることを可勤事專也、

第二十六 鳶と鳩との事

あるとき、鳩と鳶とならび居ける處に、鳶此鳩をあなどつて、やゝもすれば餌食ゑじきとせんとす、此鳩詮議評定して、鷲の本に行て申けるは、とびと云下賤の無道仁有、やゝもすれば我等に憂目見せ顏也、今より以後、其ふるまひを示さぬ樣にはからひ給はゞ、主君と仰ぎ奉らんと云ければ、鷲やすく請がつて、鳩を一度に召寄、かたはしにねぢ殺す、其殘る鳩申けるは、是人のしわざにあらず、われと我身をあやまつ也、鷲のはからひ給ふ處、道理至極也となんいひける、其ごとく、未我身に始よりなき事を新しく仕出すは、かへつて其悔有物也、事の後千度悔よりは、事の先に一度も按ぜんにはしかじとぞ見えける、聊のなげきを忍びかねて、かへつて大難を請ふ物多し、故にことわざに云、少難しのぎ去ば、かへつて大報をみだる共みえたり、

第二十七 烏と孔雀との事

あるとき、烏孔雀を見て、彼翼に樣々のあや有ことをうらやみ、と有處の木陰に、孔雀の羽の落けるをば拾取て、我尾羽に指そへて、孔雀の振舞をなし、わが傍輩をあなどりけり、くじやく此よしを見て、汝はいやしきからすの身と成、なんぞ我等が振舞をなしけるぞとて、思ふ儘にいましめてまじはりをなさず、其時からす傍輩に云やう、われよしなき振舞をなして、恥辱をうくるのみならず、散々にいましめられぬ、御邊達は若人わかきひとなれば、向後其振舞をなし給ふなと申ける、其ごとく、身いやしうして、上つがたのふるまひをな