無智の輩にむかひて、是非を不㆑可㆑論といへる心成べし、ろばとは無智の輩をさすべし、しゝわうとは、才智謀然るをたとふ也、
第十八 京と田舍の鼠の事
ある時、都のねずみ、かた田舍にくだり侍りける、ゐなかの鼠共、これをいつぎかしづくこと限りなし、これに依て田舍の鼠をめしぐして上洛す、然も其住所は、都のたうとき者の藏にてなん有ける、故に食物足て乏き事なし、都の鼠申けるは、上方にはかくなんいみじき事のみおはすれば、いやしきゐなかに住給ひて、何にかはし給ふべきなどゝ語慰む處に、家主藏に用の事有て、俄に戶を開く、京の鼠は本より案內なれば穴ににげ入ぬ、田舍鼠は無案內なれば、あはてさはげどもかくれ所もなく、辛うじて命計たすかりける、其後田舍の鼠參會して、此よし語るやう、御邊は都にいみじき事のみ有とのたまへども、たゞ今の
第十九 狐と鷲との事
あるとき、鷲我子の餌食となさんがため、狐の子をうばひ取てとびさりぬ、狐天にあふぎ地にふして、なげきかなしむといへ共其かひなし、狐心におもふやう、いか樣に鷲のあだには、煙にしく事はなしとて、柴と云物をわしの巢のもとに集めて、火を付ければ、わしの子ほのほの中にかなしむ有樣、誠にあはれにみえける、其時わし千度かなしめ共かひもなし、終に燒ころされて、忽狐に其子をくらはる、其ごとく、當座を我かつてなればとて、下ざまのものにあだをなし立事なかれ、人の思ひの積りぬれば、終にはいづくにか可㆑逃、高きつゝみも、蟻の穴よりくづれ破るとなん云ける、
第二十 鷲と蝸牛の事
あるとき、鷲かたつぶりをくらはゞやと思ひけれ共、せん事をしらずおもひわづらふ處に、烏傍よりすゝみ出て申けるは、此かたつぶりほろぼさんこと、いと