官人伺公の砌、申出し給ふ樣は、我國に損人をなをすくすし有、其養生と云は、器物に泥を入て、其病人をつけひたすこと日久し、ある病者漸十に九つなをりける時、外に出んとすれ共、此を制して門外を出ず、其內を慰み步きける、折節或侍馬上に鷹をすへ、住人に犬を牽せて通りけるを、主人走出馬のみづつきに取付、支へて申ける樣は、此のり給ふものは何物ぞ、侍答云、此は馬といひて、人の
第七 いそほ人に請ぜらるゝ事
えじつとの都に、やんごとなき學匠有けり、かほ形みぐるしきこと、いそほにまさりて醜く侍れど、をのれが身の上は知らず、いそほが姿のあやしきをみて笑なんとす、あるとき態と金銀綾羅を以て座敷をかざり、玉をみがきたるごとくにして、山海の珍物をとゝのへ、いそほをなん請じける、いそほ此ざしきのいみじきあり樣をみて云、か程にすぐれて見事なる座敷、世にあらじとほめて、何とか思ひけん、彼主のそばへつゝとよりて、顏につばきを吐きかけゝるに、主いかつて云、是はいかなる事ぞととがめけるに、いそほ答云、我此ほど心ちあしき事有、然につばきをはかんとこゝかしこを見れば、美々しく飾られける座敷なれば、いづくにおゐても、御邊のかほにまさりてきたなき所なければ、つばきをはき侍るといへば、主答云、彼いそほにまさりて、才智りせいの人あらじと笑語けり、
第八 いそほ夫婦の中なをしの事
えじつとの內かよと云所に、のとゝいへる人あり、これは富榮へて侍れ共、其妻の方はまづしくして、たよ