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やましにぞもてなしける、其後みかどいそほをめして、彼ふしんをいかにとおほせければ、いとやすきふしんにてこそ候へ、いか樣にも之れより御返事あるべきよし、仰かへさせ給ふべしと奏しける、申が如くせさせ給ふ、さるほどに、いそほめしかへされける上は、かのえうぬすが罪科のがれずして、かれを死罪にをこなはれんとの勅諚也、然所にいそほさゝへ申けるは、われをあはれみ給ふ上は、かれをも御ゆるされをかうぶりたくこそ候へ、かの者にいさめをなさば、惡心忽にひるがへして忠臣となさんこと、うたがひなしと奏しければ、ともかくもとて免さる、

伊曾保物語上


伊曾保物語中

第一 いそほ子息にいけんの條々

一、汝此事よく聞べし、他人に能道を敎るといへ共、我身に保たざること有、それ人間の有樣は、ゆめ幻のごとし、しかのみならず、わづかなる此身を扶けんがために、やゝもすれば惡道に這入りやすく、善人には入がたし、ことにふれて我身のはかなきことをかへり見るべし、

二、つねに天道をうやまひ、事每に天命を恐奉べし、君に二心なく、忠節を盡す儘に、命をおしまず眞心につかへ奉るべし、

三、夫人として法度を守らざれば、畜類に不異、ほしいまゝに惡道を守護せば、則天罰をうけん事、くびすをめぐらすべからず、

四、難儀いでこん時、ひろき心を持て其難を忍ぶべし、しからばたちまち自在の功德となりて、善人にいたるべし、

五、人として重からざる時は威勢なし、敵かならず之