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るが、よく心におもふやう、よにかくれなき才仁さいじんを、うしなはんも心うし、たとひわが命は捨つるとも、たすけばやと思ひ、かたはらにふるき棺槨ありけるに、いそほををし入て、わが宿に歸り身をきよめ、いそぎ內裏にはせ參りて、いそほこそ誅し候と申上ければ、みかどもいとゞ御なみだにむせびたまひ、おしませ給ふも御理りとぞみえにける、

第十九 ねなたを帝王ふしんの事

さるほどに、いそほ誅せられけるよしかくれなし、これによつて、諸國よりふしんをかくる事ひまなし、中にもえじつとの國ねたなをと申帝より、かけさせ給ふ御不審にいはく、われ虛空に一つのてんかくをたてん、其立樣以下をしめし給へ、御たくみに依て、天かくを忽ちざうひつせば、あまたの寶を奉り、其上年々御調物みつぎものを參すべし、速に此ふしんをひらかせ給へと書留給ふ、帝此よしえいらん有て、百官卿相、其外才智學藝にたづさはる程のもの共を召出され、此よし問給へ共、少も不審をひらくことなし、これに依て御不興と聞えける、上下萬民なみ居てなげきかなしみあへり、主上御かなしみのあまり、いそほをうしなひ給ふ事、我なすわざと云乍、偏に我國の亡ん基也、もしこのふしんをひらかせ給はずば、後日のちじよくはかりがたし、いかにとばかりにて、兩眼より御なみだがちにてわたらせ給ふ、

第二十 えりみほいそほが事を奏聞の事

ある時、えりみほひそかにそうもん申けるは、御なげきを見奉るに、御命もあやうく見えさせ侍る也、今は何をかつゝみ申べき、いそほ誅すべきよし仰付られ候とき、あまりにおしく存、おほやけの私をもつて、今迄たすけ置きて候、違勅のものをたすけ置く事、かへつて我つみもかろからず候へ共、かゝる不審も出來るならば、_國中のさはりとも成らんと思ひ侍べれば、助てこそ候へと申ければ、みかど斜ならず悅こばせ給ひ、こはまことにて侍るや、とくかれを參らせよとて、かへつて御成に預りし上は、敢へて勅かんのさたもなし、是に依ていそほをめしかへさる、いそほ參內して御前にかしこまる、御門此よしえいらん有に、久しく籠居せしゆへ、いとゞ姿もやつれはて、おかしと云もおろか成有樣也、帝臣下に仰付られ、いそほをよきにいたはり侍るべしとの給へば、人々い