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や、勝つとも久しきときは則ち兵をつひやえいくじく。城を攻むれば則ち力屈す。久しく師をさらすときは則ち國用足らず。夫れ兵をつひやし銳をくじき力を屈し貨をつくさば、則ち諸侯其の弊に乘じて起る、智者ありと雖も其ののちくする能はず。故に兵は拙速せつそくを聞く、未だこうの久しきをざる可き也。

 夫れ兵久しうしてくにあるものは未だ之れ有らざる也。故に盡く兵を用ふるの害を知らざる者は、則ち盡く兵を用ふるの利を知る能はざる也。善く兵を用ふる者は、役再びらず、糧三たびせず、用を國に取り、かてに敵にる。故にぐんしよくる也。國の、師にまづしきは遠くおくるなり、遠く輸れば百姓貧し、師に近き者は賣ることをたかうす、賣ることをたかうすれば百姓財く、財竭くるときは丘役きうえききふなり。力き財き、中原うちは家にきよして、百姓のつひえ十に其七を去る、公家の費、車を破り、馬をつからし、甲冑、矢弓、戟楯げきじゆん矛櫓ぼうろ、丘牛、大車、十に其六を去る、故に智將ちしやうは敵に食するを務む、敵の一しようを食ふは吾が二十しように當る、まめわら一石は吾が二十石に當る。故に敵を殺すはいかり也。敵の利を取るはたから也。車戰に車十乘以上を得れば、其の先づ得る者を賞して、其の旌旗せいきあらためよ。車をばまじへて之れに乘らしめ、卒をば、みして之れを養へ、是れを敵に勝つてつよきをえきすとは謂ふ。故に兵は勝つことを貴んで、久しきを貴ばず。故に兵を知るの將は、民