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之れを用ひ、必ず勝たば之れをとゞめむ、はた吾がはかりごとを聽いて、之れを用ひず、必ず敗るれば之れをてむ。はかりごと、利あり以て聽かれなば、乃ち之れが勢を爲して以て其の外をたすけよ。勢は利に因つて權を制するなり。兵は詭道いつはりのみち也。故に能くして之れに能くせざるを示し、用ひて之れに用ひざるを示し、近うして之れに遠きを示し、遠うして之れに近きを示し、利して之をあざむき、みだして之れを取り、みつるときは之れに備へ、强きときは之れを避け、怒るときは之れをみだし、いやしきときは之れを驕らし、いつするときは之れをつからし、親しきときは之れをはなし、其のそなへ無きを攻め其の不意に出づ、此れ兵家の勝つこと、先づ傳ふべからざる也。夫れ未だ戰はずして廟算べうさんし、勝つものは、さんを得ること多き也。未だ戰はずして廟算し、勝たざるものは、さんを得ることすくなき也。算多ければ勝ち、さんすくなければ勝たず、而るを況んや算なきに於てをや、吾れこゝに於て之れを觀るときは、勝負しようぶあらはる。


作戰第二

 孫子曰く、凡そ兵を用ふるの法、馳車ちしや革車かくしやじよう、帶甲十萬、千里かておくるに、內外のつひえ、賓客の用、膠漆かうしつざい、車甲の奉、日に千金を費し、然る後ち十萬の師擧がる。其のたゝかひを用ふる