Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/827

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めに天堂を造るの說、天地もいまだ生ぜずして、斯人すでに善惡の相わかれしも心得ず、凡其天地人物の始より、天堂地獄の說に至るまで、皆これ佛氏の說によりて、其說をつくれる所なれば、これ又ことく論辯するに及ぶべからず、〈まづハライソを作るといふは、劫初の天地、風吹水減じて、次第に沫を結び、化して天宮となるといふがごとく、アンゼルスの說は、光音天人の事にして、マサンを食ひしといふ事は、地味を食ひて、體重く、光滅び、また粳米を食ひて、男女の形分かれしといふに似たり、〉其天戒を破りしもの、罪大にして自贖ふべからずデウスこれをあはれむがために、自ら誓ひて、三千年の後に、ヱイズスと生れ、それに代りて、其罪を贖へりといふ說のごとき、いかむぞ、嬰兒の語に似たる、方今刑をつかさどれるもの、猶よく其情のあはれむべきものを議して、其罪を赦し宥む、其天戒といふものも、デウス自ら誡し所也、自ら其罪を赦し宥むに、なに事のあるべきにや、いはむや其誡しところのごときも、これをして果を食ことなからむのみ、あやまちてこれを食はむ罪、いかむぞ其食ひしものの自ら贖ふ事あたはずして、其獄決せざる事三千餘年を經て、デウスそれに代りて、其罪をうくるにはおよぶべき、たとひデウスは、アダンがために其罪をうくるとも、これを磔罪せし所のもの、これまた誰に代りてか、つゐに其國を滅すには至りぬらむ、又デウス盡世界の人を溺殺し、ひとり其敎にしたがふもの、海中に路開け、また其駕せし所の船、大水に漂ひ來りし所の螺殼の類、猶今にありといふ說のごとき、デウス稱してみづからよく天地人物を生じ養ひて、大公の父無上の君といふ、さらばなど其人をして、皆ことく善ならしめ、皆ことく其敎にしたがはしむる事あたはずして、盡世界の人をして、ことく皆絕滅せしむるには至れるにや、たとひまたデウスといへども、人をして皆ことく善ならしむる事あたはず、皆ことく敎ふる事あたはずば、いかむぞまた天地能造の主とは稱すべき、また至愚にして、其敎ある事をしらざるもの、何の罪かは深く咎むべき、しかるをつゐに盡世界の人をして、ことく皆絕滅に至らしむる事、いかむぞまた、これを生じこれを養ふ大父大君とは稱すべき、また怪石の船の形に似たる、斷崖に螺の殼ある、いづれの地にかなかるべき、我國のある所もまたしかり、いかむぞ又デウスの事