Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/822

このページは校正済みです

れを、始あり、終ありとす、人のごときは、最靈にして其アニマ天地と共に滅びず、〈人は靈魂ありて草木鳥獸に異也といふ、〉これを、始あり、終りなしとす、これによりて、デウス、アダンヱワに戒むるに、つゝしみてマサンを食ふことなからしむ、もしそのこれを食はむには、禽獸の中に墮して、長くその苦をまぬかるるゝ事なからむがため也き、〈マサンは果の名也といふ、佛氏いはゆる地餠の類歟、其苦とは、生老病死等の苦也といふ、〉こゝに、ルウチヘルといひしアンゼルス、自ら其智なるにほこりて、稱じて、デウスといひ、またこれを信ぜしアンゼルスすくなからず、デウスこれをにくみて、インペルノを作りて、それにくみせし輩と共に、ことく皆下界に追下して、インペルノに居らしむ、〈ルウチヘルは、アンゼルスの名也、インペルノは、こゝに火坑地獄とすといふ、〉ルウチヘルその輩とのみインペルノに苦しまむ事を恨て、テリアリに飛行き、まづヱワをすゝめて、マサンを食はしむ、アダンまたエワがすゝめによりてこれをくらふ、かくてアダンとヱワと、共に天戒を破りて、テリアリを逐れてければ、其子孫人間に降りて、其苦をまぬかれず、こゝにおゐてアダン、ヱワ、コンチリサンの心を發して、〈コンチリサンとは、此に懺悔といふ、〉、ふかく其罪を謝す、デウス其罪の大きにして、自ら贖ふ事のあたふまじきをあはれみて、自ら人の身と生れて、二人に代りて、其罪を贖はむ事を誓約す、二人は、つゐに九百三十歲の壽をたもちて、終りてハライソに至りたり、アダンをさる事二千餘年にして、〈今をさる事四千年の前なりといふ、〉ノヱといふもの、其男子三人あり、父母子婦すべて八人のみ、デウスの敎をうけしたがふ、世の人これを信ぜず、デウス降りて、ノヱに敎て、船作らしむ、百廿年にして船成れり、デウスまた降りて、彼等を敎て、穀蔬鷄豚の類迄、ことく共に船に載しむ、すでに大雨降る事四十日、大水、山をかねて、大地の人物、ことく溺れ沒す、ノヱが父子夫婦のみ死をまぬかる、其船、猶今アルメニヤの山の巓に現存し、また其水に漂來る螺殼の類、エウロパ地方、所在の山岳の上にあるもの猶あり、ノヱを去る事、一千餘年にして、〈今をさる事、三千餘年前なりといふ也、〉デウス、ジユデヨラのスイナイに降て、モイセスといふものに、マンダメンドを授て世の人にをしへしむ、〈ジユデヨラは國の名、前に注す、スイナイは山の名、モイセスは人の名、マンダメンドは佛氏いはゆる戒也、十條ありといふ、〉エヂツプトの君、其敎を信ぜず、つゐにモイセスを殺さむとす、〈エヂツプトは國の名、ヲヽランドの語には、エギツプトといふ、漢に譯せし所、詳からず、〉これに隨ひて、國を避しもの數萬人、其君