Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/820

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今のホンテへキスマキスイムス、キレイメンス、トツヲデイシムス、〈キレイメンスは、名也、トツヲデイシムスとは、十二世といふがごとし、トツヲは、二つ也、デイシは、十也、ムスは、世といふがごとしといふ、〉前志を繼ぎて、此事を議せしむるに、衆議決せずして、年を經しほどに、カルデナアル相議して〈カルデナアルは、本師に次ぎしもの、七十二人ありといふ、〉昔チイナにおゐても、我法を禁じしかども、今は其禁開けしのみにあらず、其天子の使、こゝに來る、またスイヤムのごときも、我法を禁ずといヘども、これまた其禁を除けり、今に至ては、チイナ、スイヤム、すでにかくのごとし、〈此事前に見ゆ、〉ヤアパンニヤにも、まづメツシヨナヽリウスを奉りて、吿訴ふる所ありて、次ぐにカルデナアルをヌンシウスとして其好を修めて、我法を、再び東土に行はるべきもの歟と申す、〈ヤアパンニヤは、日本也、メツシヨナヽリウスは、前に注せり、カルデナアル、上に見えたり、ヌンシウスは、こゝに信使といふがごとしといふ、〉衆議つゐに一決して、メツシヨナヽリウスたるべきものを撰ぶに、衆また同じく某を薦擧しかば、其命をうけてこゝに來れる事は、前に申すがごとし、老大の母と兄とを棄て、萬里に來る事、法のため、師のため、其他あるにあらず、初、此命をうけし日より、我志を決せし所三つ、其一つは、本國望請ふ所を聽されて、我法ふたゝび此土に行はれんには、何の幸かこれにすぐべき、其二つには、此土の法例によられて、いかなる極刑に處せられんにも、もとより法のため、師のため、身をかへり見る所なし、さりながら、人の國をうかゞふ間諜のごとく、御沙汰あらむには、遺恨なきにあらず、それも本師の命ぜしに、國に入ては、國にしたがふべし、いかにも其法に違ふ所あるべからずと候ひしかば、骨肉形骸のごときはとにもかくにも國法にまかせむ事、いふにおよはず、其三つには、すみやかに本國に押還されん事、師命をも達し得ず、我志をもなし得ず、萬里の行をむなしくして、一世の讒を貽さむ事、何の恥辱かこれにすぐべき、されど我法いまだ東漸すべからざる時の不幸にあひし事、これ又誰をか咎むべき、これらの外、申すべき事もあらずといふ、

初、我國に至りし時、長崎にゆかむ事をねがはず、直にこゝに來らむと望む、其故をとふ、我萬里にして、此行ある事は、我國命を上達すべきため也、此故に直にこゝに來らむ事を望請ふ、いはんや長崎のごときは、ヲヽランド人のある所、我またかしこにゆかむ事をねがはずといふ、聞くがごときは、其國の使命をう