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の北海に至り、其北地は、ソイデアメリカにつらなれり、此方、寒凍極めて甚しく、人物を生せず、ヲヽランド人、海鯨を逐ふて、此地に就て捕るといふ、〈ヲヽランド人の說に、むかし本國の人相議して衣食器械、寒をふせぐべき物どもを備へて、此地に就てとどまる、かくて明年に至て、本國の人、また至て見るに、其人、坐するものはながら死し、つものは、タチながら死て、一人も生活するものなく、其肌肉乾脯のごとくにして、腐爛せず、其地寒凍の甚しき、かくのごとくなるに至るといふ、〉

大凡、エウロパ地方の諸國、其君を立るに、其嗣たるべきもの、すでに定まれるは、論ずるに及ばず、もし嗣いまだ定まらざるは、臣民各共嗣とすべきものゝ名をしるして出す、其しるせし所の數、多きものを以て、其君とす、君其臣に官を命ずるも、亦これに同じ、臣民薦むるもの多き人を擧用ふ、君アヘてみづから一官を命ずる事もあたはず、〈ヲヽランド人の說に、本國には、君をたてずといふ、たとへば、周の六卿のごとくに、をの其事を掌れるの官長をたてゝ、治めしむ、國人その官長を撰ぶ事は、此方諸國、君をたつる法のごとし、又ジヨセフが說によるに、エウロパ地方、レネサ、ゼヌワのごときは、國こぞりて、一人を撰びて、國事を治めしむる事一年、每年に其人を代ふるといふ也、レネサ、ゼヌワ等の國、いづれの所にありといふ事は、不詳、〉此方諸國、君長の位號、數等あり、其上等を、ホンテヘキス、マキスイムスといふ、これ最第一無上等の義也、ひとりローマン敎化之主一人のみ、此號ありといふ、此方の諸國、天主之敎を尊信するが故に、此號を以て、其人を推稱するとみえたり、其次はインペラドール、〈これ、漢に帝といふがごとし、ゼルマアニヤの君のごとき、これ也といふ、〉其次は、レキス、〈これ漢に王といふがごとし、フランスヤ、アンゲレア等の國君のごときこれ也といふ、〉其次は、フレンス、〈レキスに次ぎし所の號也といふ、其說をきくに、たとへば漢の大將軍のごときをいふ歟、ヲヽランド、イスパニヤ、相戰ふ時に、アンゲレアのレキス、其國の兵をひきゐ來りて、ヲヽランドのフレンスとなりて戰いしなど、いふ事あり、〉其次は、ホルスト、〈これ、フレンスに次ぎし所の號也、ゼルマアニヤに屬せし、七國の主に、此號ありといふ、これ又漢の將軍の號あるがごとくなる歟、〉其次は、ドウクス、〈これ、ホルストに次ぎし所の號也、イタリヤのごとき、所在をの其兵をつかさどるものありて、これをドウクスと稱すといふ、部落の酋長を稱する所なるべし、〉これらに屬する所、またをの其位號あり、ことくにかぞふべからず、〈萬國坤輿圖を按ずるに、歐邏巴州の諸國、凡官有三品、其上は、敎化を興す事を主るといふは、ローマの主をいひ、其次は、俗事を判理すといふは、インペラドール、レキス等のごとく、其次は、專ら兵戒を治むといふは、フレンス、ホルスト等のごときを、其方によりて、稱する所同じからぬ歟、〉此方諸國の俗、大に同じけれども、亦少しく異ならざる事あたはず、たゞ其ゼルマアニヤ、スウエイチヤ、ヲヽランド等地方の人は、髮黃に縮りて、瞳子白し、ムスコービヤ地方の人は、モゴル人に似たり、此方相尙ぶ所の敎は、皆これヱイズスの法也、たゞヲヽランド人のみ、ルテイルスの徒也といふ、〈ヱイズスは漢に耶蘇セースと譯す、むかし、我俗に、ゼスといひしこれ也、ルテイルスは、其法の異端也といふ、ヲヽランド人の說に、此方各國、冠制異同あり、皆玉を以て飾れり、たゞこれ、國君卽位の時に、用ふるのみ、よのつねは、皆々被髮を以て禮とす、被服のごときは、皆本國に相同じ、モゴル人といへども、本國の制に、大に異なるにもあ〉