Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/784

このページは校正済みです

て、國命を達せむがために候に、ねがひのまゝに、此折には來りぬ、此所をさりて、又いづれのかたにかのがれ侯べき、たとひ又其こゝをにげさるとも、此國の人にも似ざらむものゝ、いづれのかたに、身を一日もよせ候事のかなひ候べき、されど、仰によりて守らせ給はむ上は、其守怠り給ふべき事然るべからず、晝はいかにも侯へかし夜るは、手かし足かしをも入られて、獄中につなぎ置れ、人々をば、夜を心やすくゐねられ候やうに、よきに申して給るべしといふ、奉行の人々も、其由を聞て、あはれとおもひし氣色ありしを、某、此ものは、おもふにも似ぬいつはりあるものかな、といひしを、大きに恨みおもひし氣色にて、すべて、人のまことなきほどの恥辱は候はず、まして、妄語の事に至りては、我法の大戒に候ものを、某、事の情をわきまへしより此かた、つゐに一言のいつはり申したる事は侯はず、殿には、いかにかゝる事をば仰候ぞや、と申す、今、汝のいひし所は、年くれ、天も寒きに、こゝに候ものゝ、よるひるとなく、汝を守り居るが、見るに堪がたさに、かくは申す歟と問ふ、其事に候と答ふ、さればこそ、其申す所は、いつはりにてあるなれ、彼等が汝を守るも、奉行の人々の命を重んじぬるが故也、又、奉行の人々も、おほやけの仰をうけて、汝を守らせ給ひねれば、汝がいかにも事故なからむ事をおもひ給ふが故に、衣うすく、肌寒からむ事をうれへて、衣給らむとのたまふ事、度々におよびぬ、もし今汝が申す所のまことならむには、などか、此人々のうれへおもひ給ふ所をやすむじまいらせざらむ、もし此人々のうれへ給ふ所をも、汝が法のためにかへり見ざる所あらば、何條、こゝに候ものどもの法のために汝を守る事、かへり見おもふにはおよぶべき、されば、汝のさまに申せし所の誠ならむには、今申す所はいつはれる也、今申す所のまことならむには、前に申せし所はいつはれる也、此事はいかにも申し披くべしといひしかば、大きに耻おもひし氣色にて、今の仰を承り候へば、さきに申せし事は、誠にあやまり候ひき、さらば、いかにも衣給りて、御奉行の心をやすむじまいらすべきに候と申す、奉行の人々も、よくこそのたまひ給つれといひて、悅びあへり、かさねて、又通事にむかひて、同じき御恩に候へども、ねがはくは、給らむもの、絹紬の類は、某が心な