しづしづと霧が占めくる巷には朝を失(な)くして鳴かぬ玄鳥(つばくら)
ひたすらに病む眼いたはるひとときの想にのこる爪のいろなど
白い猫
たたかひは砂漠のかなた黄槿は立秋の丘に年輪をきざむ
ハンガリアよりの放送は終る簷端には晕(かさ)をめぐらす東洋の月
太陽にさからひきたるラヂオのこゑ大地の片面(も)は白日(ひる)なりと告ぐ
浅よひの卓にとびくる白い蛾は翁に見えて殺しかねたり
岩かげに脚をひたせば鰭の緋(あか)い小魚はすぐに友だちになる
海鳥
大穹(ぞら)のひかりにすさむ愛欲(かなしみ)か鶚(みさご)のたはれ羽毛(け)を散らしつつ