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鍵盤にはしるをよびは青みつつ芭蕉わか葉に夕明あかりひさしき


旋盤にけづられてゆく砲身はイルクツクあたりのうみを匂はす


    メンデルスゾーン作、ホ短調ヴアイオリン協奏曲を聴く


白日ひるの空しなひつつ飛ぶ投槍の秀にはひそむか聴神経節


貪婪たんらんを絃の妖婦バンプは肉ぶとにはてしない夜の似顔絵を描く



  解剖室


指針はり(さき)に脳の重さの顫ふとき黄金きんの羽蟲は息絶えにけり


吉丁たま蟲の羽根に砒石をきながら喪はれゆくひかりににえ


童貞女黄泉よみの磧になげくとも泰山木のはなはしづかに


黒い眼鏡の奥に見てゆく森の路片眼見せたは魔法つかひか


脳髄の空地に針をたてながら仙人掌は今日もはびこる