妻
このごろの便り遠のく妻のこと梨の芽立に想ひてゐたり
こゝろにはいくたりの人汚しつつたもつ不犯(ふぼん)はおのれ悪(にく)めり
人ごみに遠ざかりゆく襟あしの繊きがなにか眼には沁みつつ
隕石(ほし)の群ながるる白日(ひる)のしづけさに雷針の金高くまどろむ
かはたれはクロバ畑に紋(もん)白蝶(しろ)が降らす微粉に咽せて醒めたり
毒蝶は薊の蜜を吸ひつくしかげらふ昏き森に消えたり
玻璃ごしに盗汗(ねあせ)の肌を嗅ぎ寄るはおのれ光れる冥府(よみ)の盲魚か
無花果のまばら枝すでに萌えそめて空のうるみに反(そり)の明るさ