夜⑴
三面のかがみに灯(とも)す白き手の繰るともあらぬ地獄まんだら
更くる夜の化粧はさむし灯の底に己が肉喰(は)む鬼ともならず
隕ちてくる星のなげきか栗鼠の尾かこの夜の訛り聴くものもなく
霧の夜はペーブメントに滲みだす男餓鬼女餓鬼の蹠(あなうら)のこゑ
辻々の鋪(しき)石にしみた吐息などがぼやけて青いあかときとなる
霧の降る巷となれば窓のない煙突ばかりが伸びあがるなり
赤い眼に太古の夢を啖(く)つてゐるボイラーなどになりたいこの夜(よる)
×
焼けあとの煙突などに受胎する小鳥であれと天日に翔ぶ