隠花属太古の瘴気をたくはへて谿谷はもう秋を見すてる
蘚苔も夜の猫族も威をふるふ退化の窗は北を指したり
秋さむし悲情の壁に凭れつつ肚裏の谺に聴く神もなく
アダムスら洋(うみ)のみなみに老いゆくか青きがままに落つる無花果
肋骨を透明にする蟲がゐて夜ごとにひらく夢の瞳(め)を螫(さ)す
ほろびゆく瞳にしみて秋萩のひかりはにがしをみな子は愛し
あるときは十指の爪を抜きはてて既往の天(そら)に星の座を繰る
跫音のなかにすたれる希(ねが)ひなれば今日の背にたつ鳥影も見ず
よるべなく季節にかへるあこがれか風速計に氷点を読む