Page:Ainu monogatari takekuma.pdf/30

此（こ）の樣（やう）に競（きやう）爭（さう）好（ず）きな神樣（かみさま）であるが、人（ひと）をあはれむことが厚（あつ）くて、魚（うを）・ウバユリ其（そ）の他（た）の物（もの）を、よくアイヌに贈（おく）つてくれた。此（こ）の神樣（かみさま）は常（つね）に裸（ら）體（たい）で、一（ひと）つの蕗（ふき）の下（した）に幾人（いくにん）も住（すま）うので、「コロボックンクル」の名（な）を得（え）たのである、（コロとは蕗（ふき）。「ボツ」は「ボツク」の略（りやく）音（おん）にして下（した）、或（あるひ）は陰（かげ）の義（ぎ）。「クン」は「ウン」の轉化（てんくわ）にして居（ゐ）るの義。「クル」は人（ひと）の尊（そん）稱（しよう）。神樣（かみさま）にして人（ひと）に化身（くわしん）せる場（ば）合（あひ）も何々（なに〳〵）（神（かみ）の名（な））クルと稱（しよう）せらる）

人（ひと）に贈（おく）るために作（つく）る「ホシ」（脚袢（きやはん））は、御（ご）自（じ）身（しん）の體（からだ）の高（たか）さに等（ひと）しい丈（たけ）にせらるゝのである。此（こ）の神樣（かみさま）は前（まへ）に述（の）べた通（とほ）り裸（ら）體（たい）であるから、人（ひと）に見（み）らるゝのを恥（はぢ）とし、物（もの）を贈（おく）るには入口（いりくち）から手（て）のみ差（さし）入（い）れて贈（おく）らるゝが、之（こ）れを人々（ひと〴〵）は恭（うや〳〵）しく頂（ちやう）戴（だい）するのであつた。