つありしに、今囘(こんくわい)圖(はか)らずも、其(その)著述(ちよじゆつ)に接(せつ)したれば、何(なん)となく嬉(うれ)しく感(かん)じたり。
從來(じうらい)アイヌ種族(しゆぞく)の事(こと)を記(しる)したる書籍(しよじやく)少(すく)なからず。然(しか)れども皆(みな)他人種(たじんしゆ)の手(て)に成(な)りて、アイヌの筆(ふで)に書(か)かれたるものにあらず。アイヌにしてアイヌ種族(しゆぞく)の事を著述(ちよじゆつ)せるは、實(じつ)に武隈氏(たけくまし)を以(もつ)て嚆矢(かうし)とす。本書(ほんしよ)固(もと)より一小(せう)著述(ちよじゆつ)にして、其(そ)の內容(ないよう)亦(また)完全(くわんぜん)なりと言(い)ひ難(がた)しと雖(いへど)も、アイヌ種族(しゆぞく)に於(お)ける最初(さいしよ)の著述(ちよじゆつ)として、一つの好書(かうしよ)たるを失(うしな)はず。