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第一章 総論
 

止め或は積極的に利潤を增大することが經營の指導󠄁精󠄀神󠄀であつた。斯ういふ時代の個人主義的な營利意識が原價計算に着眼したのである。

 然らば何故に原價計算は營利の增進󠄁になるか、元來原價計算とは工業に於ける製品の原價を算出することである。だが原價計算は、たゞ原價を算出するといふのでなく、これを經營の指導󠄁役として使用するといふ處に使命がある。この原價計算は製造󠄁過󠄁程の計算的分󠄁析である。卽ち在來の簿記機構󠄁で知り得ぬ內面的經營の解剖である。從つてこの原價計算を行ふ時は、こゝに初めて原價を通󠄁してみた經營の反省が起るのである。而して原價を科學的に分󠄁析する時は浪費、濫費を的確に指摘し得るものであり、其他非能率の實在等經營上の缺陷は手に取るやうに判󠄁然とする。こゝが原價計算の狙ふ第一の點である。斯やうに經營の不合理や缺陷は原價計算に依つて明確に明るみに出るがまた原價計算は同時に原價を低減する効果が大きい。これが第二の點である。

 原價計算が經營的武器󠄁として着眼せられるやうになつたのは當然のことである。だが原價計算が專ら經營擁護の武器󠄁であつたことは最近󠄁に至る迄、僞りのない事實であつて營利意識を根幹とする企業的性格こそ、これ迄の原價計算の見逃󠄂し得ぬ特質である。從つて原價計算の結果、營利衝動を滿し得ぬ部面が存する場合は、それが國家的見地から有用な物品であつても、その製造󠄁を放棄する