Page:鐵道震害調査書 大正12年.pdf/39

このページはまだ校正されていません

 二 東海道󠄁本線馬入川橋梁

 造󠄄槪要  (附圖第五十三乃至第五十五參照) 本橋梁は茅ケ崎平󠄁塚間東京起點38哩61鎖19節6の馬入川に架設せられ,上下總延長4,253呎6吋,單線竝列式にして,上下兩線とも徑間70呎の鈑桁28連より成り,橋梁上線路は水平直線にしてその方向は南81度西なり。上り線は明治二十一年八月,下り線は複線增設として明治三十一年四月の建設に係り,上り線に於ては附圖第五十五に示すが如く橋脚第二十二號及び第二十三號は明治四十五年一月に,第二號,第四號,第八號及び第十一號は大正五年二月に何れも强度不足の故を以てその上部を補强改築し,又第十號乃至第二十七號及び沼津方橋臺は鍊鐵製の舊鈑桁をE33新鈑桁に更換(機關車荷重の增加に對する强度不足のため)するに當り,兩鈑桁の高の相違に應じて橋脚頂を低下せしめざるべからざるに至り,大正十一年四月これが改造を行ひたり。而して震災當時に於ける本橋構造の大要次の如し。(附圖第五十四及び第五十五參照)

  下部工  上下線用橋臺 基礎は杭打混凝土工,軀體は煉化石積にして隅角には石材を用ひたり。形は四字形なり。

 上り線用橋脚 基礎は第十五號より第二十號に至る6基の橋脚を除き,他は煉化石積の短徑7呎6吋,長徑12呎2吋の楕圓形井筒を用ひ,その深は約27呎乃至37呎にして,第十五號より第二十號に至る橋脚は杭打混凝土工とす。軀體は煉化石積にして隅角の水切又は半圓形をなせる部分には石材を混用せり。

 下り線用橋脚 基礎は短徑7呎6吋,長徑13呎8吋の楕圓形井筒を笠石下約34呎乃至45呎の地點まで沈下したるものなり。軀體はその構造上り線に同じ。

  上部工  上り線用鈑桁は第一號より第十號まで重量約22噸(工務型と稱せしもの),第十一號より第二十八號までは27.3噸(E33)のものにして(大正十一年春架換を行ふまでは第十一號乃至第二十八號は鍊鐵製工務型鈑桁にして重量約22噸なりき),下り線用鈑桁は上り線と同く22噸のものなり。材料は何れも鋼なり。

  被害狀況  (附圖第五十三,第五十六並に寫眞第二百三十五乃至第二百五十一參照) 上り線に在りては,東京方竝に沼津方兩橋臺とも河心に向ひて傾斜し,移動6吋に及べり。東京方橋臺はバラス止破壞し,凹字形軀體の川上方側面部は縱に切斷し.川下方側面部には大なる龜裂を生じたり。第一號より第四號に至る4基の橋脚は地盤面以下約2呎6吋乃至4呎の箇所にて切斷摺動し,切斷面以下の軀體工には數箇所の龜裂を生じ,又第七號,第十號,第十一號及び第十四號乃至第二十號,合計10基の橋脚は桁座面より15呎乃至22呎の箇所にて切斷顛倒し,殘餘の13基は桁座面より下12呎乃至21呎の箇所にて切斷顛倒せるのみならず,井筒も亦笠石面下3呎乃至11呎の箇所にて切斷して上部の摺動せるもの多く,その狀況は第二十表及び附圖第五十三に示すが如し。

 鈑桁は第一號より第四號に至る4連は東京方橋臺に向て6吋乃至1呎摺動したるも墜落するに至らざりしが,殘り24連は悉く墜落して大半川下に橫たはり,東京方橋臺に向て約3呎乃至10呎移動したる位置に在り。下り線に在りては,東京方橋臺は前方に約10吋移動し,且バラス止切斷して川上方側面に斜に龜裂を生じ,沼津方橋臺は前方に約2呎移動せり。而して第一號乃至第五號及び第十號の6橋脚は龜裂を生じ,中心點に於て11/4吋乃至8吋の狂ひを生ぜしが,殘りの21橋脚は何れも桁座面より下13呎乃至18呎の箇所にて切斷顛倒せり。

 橋臺及び橋脚の地盤以下の被害は未だ調査するに至らずと雖も,多少の被害あるは推測に難からず。

 鈑桁は第一號より第五號に至る5連は東京方橋臺に向て6吋乃至1呎6吋移動し,殘りの23連は悉く川下に墜落し,東京方橋臺に向て約3呎乃至30呎進出したる位置に橫たはれり。

 被害狀況概ね上記の如くなるが,本橋の被害調査は震災發生後旬日を經過して着手し,その間驟雨のため出水等ありたるを以て,震災直後に比し轉倒橋脚及び墜落橋桁の位置等多少の差異あるを免れず。又下り線は應急工事に際し殘存せる基礎工を假橋に使用せしため,地下に於ける破損は未だ調査するを得ざれども,上り線に在りては改築のため折斷せる橋脚の基礎の周圍に箱枠を降下せしを以て,平水面以下約15呎間に於ける井筒の被害をも知ることを得たり。依てその切斷箇所と地盤高,橋脚高等の關係を附圖第五十六に圖示せり。

 次に各橋脚の顛倒せし位置は,橋の中心線に平行(南81度西)して橋脚頭を東京方に向け線路中心線より稍々川下に於て扁平に倒れたるもの上り線12基下り線2基,これと直角をなし橋脚頭を川下(北9度西)に向け倒れたるもの上り線4基,下り線7基,小端竪に倒れたるもの上り線1基,この兩方位の中間に扁平に倒れたるもの上り線4基,下り線9基,この外調査の際出水のため水中に沒して位置不明のもの上り線2基,下り線3基あれども,何れも東南4分圓圈外に出でたるものなしと見做し得,斯くの如く顛倒方位の上下線に於て異るのみならず,顛倒橋脚數も上り線に於ては23基,下り線に於ては21基にして,上り線に比し下り線の被害稍々少きは,下り線の橋脚基礎は何れも井筒にして,その斷面幅7呎6吋長13呎8吋の小判形なるに,上り線の橋脚基礎は第十五號乃至第二十號の6基は杭打混凝土工にして井筒工より根入淺く,その他の橋脚基礎は全部井筒工なるもその斷面幅7呎6吋長12呎2吋の小判形にして,下り線の斷面より小なるに因るためならんか。

 又上り線鈑桁は第一號乃至第十號の10連は重量22噸工務型にして,その他の18連は重量27.3噸のE33型なるに,下り線は全部重量22噸の工務型なり,橋脚との定着法は兩者全然同一にして,固定端にありては床鈑を定着桿にて橋脚に定着し,可動端に在りて