別なる子細あり。をの〳〵が了簡にあたはじといふ時。年寄庄右衛門問ていわく。さては汝に尋ぬる事有り。惣じて一切善悪の衆生皆死に帰す爾者善人は來て。善所を語り。六親朋友を勧誡し。悪人は來て。悪所を知らせて其身の苦患を脱れん事を願ふべし何故ぞ死者尤多きに。來る人甚だまれなるや。又いかなれば汝一人爰に來て。今のことはりを述るぞや怨灵答ていわく。能こそ問れたれ此事を。それ善人悪人怨讐執對有て。死する者多しといへ共。來て告る人少き事は。是皆過去善悪の業决定して。任運に未來報應の果を感じ極むる故爰に來る事能わざる歟。あるひは宿世におゐてこゝに帰り告げんと思ふ。深き願ひのなきゆへか。又は㝡後の一念に。つよく執心をとめざるにもやあらん他人の事はしばらくおく。我は㝡後の怨念に依て來りたりといへば。名主年寄をはじめ。村人何も尤と感じ。さては怨灵退散の祈祷を頼んとて。當村の祈念者を呼よせ。仁王法花心經なんど讀誦する時。怨灵がいわくやみなん〳〵よむべからず縦ひ幾反功を積共。我に縁なしうかぶべからず。只念佛をとなへて。与へたまへとあれば。其時名主問ていわく。誦經と念佛と。何のかわり有てかくは