いふやう。何事をのたまふぞや人〻。我はきくにてはなし与右衛門がいにしへの妻に累と申女なり。我姿の見にくき事をきらひて。情なくも此絹川へ押ひてくびりころせし。其怨念をはらさんために來たれり。今与衛門法蔵寺に隠れ居るぞ。急ひで彼をよびよせ。我に逢せて此事を决断し。各〻因果の理りを信じ。わが流轉のくるしみを。たすけてたべ。あらくるしやうらめしやといふ時。村人の中に心さかしきもの有ていふやう。今の詞の次第。中〳〵菊が心より出たる言葉にはあらず。いか様怨念灵鬼の所以と聞えたり。所詮彼が望にまかせて。与右衛門を引あわせ。事の実否をたゞさんとて。法蔵寺に行きひそかに与右衛門をよび出し。かくと告ればかの男ちんじて云やう。それは中〻跡かたもなき。虚言なり此娘狂乱せるか。将又狐狸の付そひて。あらぬ事を申すと聞へたり。よし其儘にて捨置給へと。色〳〵辞退するを。やう〳〵にこしらへ連帰り。菊にあわすれば。累が存生の詞つかひにて。上件のあらまし一〻滞らず云時。与右衛門そらうそふひて。かゝる狂人おのれが病にほうけ。ゆくゑもなきそらごとをつくり出て。父に恥辱をあたへんとす。ひらに人〻その儘捨置たまひ。皆〻帰らせられよといへば。かさねが