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のぬけ出たるも。引入ひきいりいろのあかきもたちまちあをく成り たゞまじと和尚の御かほをながめ。なみたをうかべたる はかりにて。いなせの返事はせざりけり。其時和尚いかりを あらはし左の御手をさしのべ。かしらかみをかいつかみ。床の上 におしつけ。おのれ第六天たいろくてん魔王まわうめ。人の物いふに何とて 返事はせぬぞ。只今ねぢころすが。是非ぜひいわざるやと。しば ししづめてきゝたまへば。其時いきの下にてたへしく。何か一 くちものをいゝけるを。和尚のみゝへはすとばかり入けるに。名 主はやくも聞つけ。すけと申わつはしで御座あると申と いふ時。こは何者なにものの事そとといたまへば。名主がいわくこゝ もとにては。六つ七つばかり成男の子を。わつはしと申と いゝけれは。和尚菊に向てのたまはく。そのすけといふものは しゝたるものかいきたる物かと聞給へば。またいきの下に てこたふるやう。かてつみにゆくとて。松原まつばら土手どてから 絹川きぬかわへさかさまにうちこふだといふを。和尚おしやうやう聞 うけたまひ。さては聞へたりとて打あをのき。名主に向 てのたまふは。いかに其方はいやなる所の名主かな。今の ことばを聞たまひたるか。さては此わつはしは。大方おやのわ ざにて。川中に打こふだりと聞へたり。いそひで此おやを せんさくしたまへと有ければ。名主承り。尤仰せかしこ まつて候へ共。かつて跡形あとかたもしれぬ事なれば。何とか せんぎ仕らん。たゞそのまゝにて御とふらひあれといふ時。和尚